小説 川崎サイト

 

商店街ダンジョンの鍵


「あの商店街に入ってはだめだ」
「何故ですか」
「よし、そういう返事を待っていた。興味があるとみた」
「単純にそう思っただけで、何故駄目なのかを少しだけ気になりますので」
「いい趣味だ」
「いえいえ」
「あそこは駄目だ。危ない」
「確かに開いている店は少ないですし、人もまばらですが、まあ、今どきの市場はそんなものでしょ。逆に人で人で混み合い、前へ進めないほどなんかの方が怖いですよ、異常な場所だと思われます」
「いい感想だ。悪くない」
「それで、何故、あの商店街は駄目なんですか」
「ダンジョンが発生しておるから」
「何度か中に入りましたが、そんな込み入った場所じゃないですよ。二筋あって、真ん中あたりで十字になっている程度です。どの出入り口からでも市街地に抜けられます」
「通りはね」
「アーケードが高いのですが、まさか二階にもあるのですか」
「それはない。二階は店の住居。倉庫程度、上に行くには店屋の中に入り、そこにある階段を上らないと行けない。一般客はそこまで入れない」
「じゃ、何処が怪しいのですか。確かに古いので、ややこしそうですが」
「ダンジョンの入口を教えてやろうか」
「え、商店街がダンジョンなのではないのですか」
「そうとも」
「じゃ、ダンジョンの入口は何処です。地下迷宮があるのですか」
「私も怖くて、そこまで入ったことはない。ほんの触りだけで、引き返した。そこは入ってはいけない迷宮だったのでね」
「入口を教えてください」
「ここを真っ直ぐ行けば十字路に出る。そこを左に入った中頃に豆腐屋がある。シャッターは開いているが、店は閉まっている。だから暗い」
「はい」
「その豆腐屋の奥に扉がある。そこは閉まっておる」
「はい」
「それを開ける鍵を私は持っている」
「それで扉は開くのですね。そこから先がダンジョンですか」
「そうだ。物置の扉ではないし、また豆腐屋の私宅でもない。その豆腐屋の普通の部屋ではなく、扉の向こうはまだ通路なんだ」
「はあ」
「だから豆腐屋の敷地からはみ出しておるはず。その通路、長いのでな」
「はい」
「通路は狭い。最初、お隣の店屋との隙間の路地だと思っていたが、そうではない。洞穴なんだ」
「それは凄い」
「真っ直ぐな通路の先に少しだけ膨らみがあり、左右に分かれる。私はそこまで行ったが、これは危ないと思い、引き返した」
「本当にそんなダンジョンがあるのですか」
「興味があるのなら、この鍵を君にあげる」
「でも困るでしょ」
「それはスペアだ」
「あ、はい」
「行ってみたいか」
「はい、行きたいです」
「では、行かせてあげよう。鍵を渡す」
「はい」
 青年はその鍵を握りしめ。言われた通り、十字路まで出て、左に曲がり、豆腐屋を見付け、その奥にある扉を開けようとしたが、半開きだった。
 それを開けきると、ガタッとバケツが上から落ちてきた。板のようなものも。
 やはり物置だったようだ。
 
   了
 


2021年3月10日

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