小説 川崎サイト

 

案配


 谷口は満足を得たのだが、すぐに不満が出てきた。思っていたものと違っていたためだろう。しかもメイン箇所で。
 その他にも不満点はあるが、それ以外はまずまず。そうなると、満足など得られていなかったことになる。
 想像と現実は違う。しかし、想像外、予想外のところでの満足はなかった。すると満足の塊を得たのか不満足の塊を得たのかが分からなくなった。
 何をどう選んでも不満はあるだろう。しかし、満足を得たのは瞬間で、すぐに不満を覚えた。これはいけない。
 谷口は不満を感じないよう注意し、後悔しないものを選んだはず。不満足を味わいたくないため。しかし、そうではなかったようだ。
 不満箇所が最初から分かっておればいいのだが、そうではなく、ここは不満ではなく満足を得られるだろうというところだけに厳しい。
 谷口の眉間の皺が深まった。選択眼がなかったともいえる。それならば不満点が分かっているものの方が始末がいい。そしてその不満はあるものの、満足が得られるものもある。これは確実性が高いので期待外れにはならないだろう。
 しかし、不満な点があるので、それが気になって、そちらを選べなかった。
 谷口は自分の選択肢を疑うのがいやだ。そのため、失敗を認めたくない。
「まあ、慣れればどうと言うことはありませんよ、谷口さん」
「はあ、そうなのですが、それじゃ以前とあまり変わらないのです」
「いいところもあるでしょ」
「いいところといっても、普通です。特に凄いということではありません」
「難儀ですねえ」
「何とかならないものでしょうか」
「見込み違い、見当違いはよくあることですよ。それもいずれ慣れれば何とかなります」
「はあ」
「私と谷口さん、あなたとの関係もそうでしょ」
「いえ」
「分かっております。私に対して不満があるはず。また私も谷口さんに対して不満がある。でも慣れればそんなものだと思い、やっていけるでしょ」
「それとこれとは話が違うのですが、まあ、そうとも言えますねえ」
「悪いところ、不満ばかりを見ないで、いいところを注目すればいいのです。また、良さを見いだすことも大事」
「いい説明ですねえ」
「そうでしょ。世の中、妥協の産物。そのあたりを案配やっていけば、なんてことはない」
「案配ですか」
「そうです」
「じゃ、まだ見えていない良さを発見します」
「それには慣れ親しまないと見えてきませんよ」
「はい分かりました」
 
   了


 


2021年3月22日

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