小説 川崎サイト



魔除け札

川崎ゆきお



「な、何ということだ」
 化け物は立ち去った。
「おお、この仕打ちはどうしたことじゃ。心変わりか……」
 また去って行く化け物がいる。
「どうかされたか?」
 通りすがりの僧が聞く。
「あまりといえばあまり」
「わけを話しなされ」
「毎夜入れたのに今宵からあのような仕打ち」
「仕打ち?」
「あれでは中には入れませぬ」
「そんなはずはなかろう」
「あれが目に入りませぬか」
 化け物は入り口を指差す。
 僧は入り口を開ける。
「開くではないか」
「入り口に……」
「入り口が如何した?」
「お札が」
「おお」
 僧はやっと気付いたようだ。
「これで封じられたのじゃな」
「このようなもの、今までずっとなかったのに……」
「そうか」
「あれを取り外してもらえまいか」
「わけあってのこと。勝手に剥がすわけには」
 また化け物が現れた。
「あれを」
「おお」
 その化け物も悲しい表情となる。
「お坊、何とかなりませぬか」
「うむ、これも何かの縁」
 僧は紙を剥がした。
 二人の化け物は中に入った。
 だが、すぐに飛び出してくる。
「うう、中にもお札が……」
 そこへ別の化け物がやって来た。
「ここもか」
「あちらもでございますか」
「そうよ、あちらもお札で入れぬ」
「一体どうなってしまったのやら」
「知恵ある者が処したに違いない。お坊様、何か心当たりは?」
「増え過ぎたためじゃろう」
「それにしても、惨い仕打ち。あれほど優しき人々がどうして急に」
「じゃから増え過ぎたためじゃ」
 僧は剥がした紙に記された呪文を読み解いた。
 店内にて長時間のお勉強はご遠慮ください。
 
   了
 
 


          2007年9月12日
 

 

 

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