小説 川崎サイト

 

妙な感じ


 朝、起きたとき、赤西は異変を感じた。
 いつもと違う。
 布団から出る前、上体を起こしたとき、それに気付いた。その前に目を開けたときにも少しおかしいとは思ったが、今まで寝ていたのだから、そんなものかもしれない。
 上体を起こし、部屋を見回す。しかし、異変の正体は掴めない。ただ、こんな部屋だったのかと、少しだけ不思議な感じになる。しげしげと見たためだろう。何かおかしいと、それを探すように見るのは普段はない。
 掛け布団をめくり、立ち上がる。
 やはり少し違う。部屋の中は同じで、別の部屋で目覚めたわけではない。そしてテーブルや家具や置物などは同じ状態。いちいちチェックしたわけではないが、そういう並び方であり、配置のはず。いずれも見覚えのある状態。
 だが、少し違う。様子が。
 いつも寝ている居間から出て、隣の部屋を見るが、ここもしげしげと見ることは希。変わっていないように思うが、違っているかもしれない。
 廊下に出ると、壁に雨具が掛けられている。カッパだ。ここに掛けたままが長い。置き場所ではないし、このカッパ、使っていない。
 廊下の天井を見る。滅多に見ることはない。蜘蛛の巣が張っていたのか、一本の線だけが垂れ下がっている。天井板がこんな色をしていたのかと改めて知る。そこは通るだけで見るとしても足元か壁程度。上まで見る用がない。
 見慣れているはずなのに、見慣れていない。そういう見方をしないためだろう。
 目覚めたときからの妙な感じはまだ抜けない。それが室内の色々なところから反射してくる。反応だろうか。しかし具体性が低い。
 台所を一寸覗く。
 これはよくある。ガスコンのチェックで、まさかとは思うが、消していないときがある。当然鍋は焦げる。その前に、けむたい感じが居間にいても伝わってくるのだが。
 ここはよくその位置から覗くので、妙な感じは伝わってこないが、少し煙ったよう印象がある。火はない。逆光のためだろう。空気の色が薄く感じられる。
 そしてトイレのドアを開けるが、そこは問題はないが、全体から滲み出るような妙な感じはここにもある。ドアノブを見ると、こんな色をしていたのかと、改めて気付く。余計なものを見てしまうようだ。
 目覚めてからの妙な感じは、朝の用を済ませ、外に出たときは、かなり薄らいでいた。
 表通りに出たときは、もうそんな感じは消えている。
 
   了

 


2021年4月3日

小説 川崎サイト