小説 川崎サイト

 

恩返しのできない亀


 亀田は色々な人から恩を受けている。しかも人よりも多いだろう。恩が多すぎて、恩返しができないまま。
 人から受けた恩は忘れないはずだが、かなり忘れている。覚えているものもあるが、忘れていないだけ。
 恩返しを考えるのなら、忘れた方がいい。負担が減る。
 人は周囲の人達のお陰で生きている。別に恩など受けていない相手でも、お陰様で、とかが口癖になっている。お陰様で元気ですの、お陰様とは草葉の陰から見ている人達だろうか。もう既に亡くなっていたりする。
 まあ、先祖代々のお陰様で、ということもあるだろう。亀田にはその実感はないが、先祖の誰かがいなければ、またはその行動次第で亀田も産まれてこなかったはず。
 それよりも亀田は色々な人から恩を掛けられ、可愛がられたので、何とか生きているのだろう。
 中には恩着せがましく言う人もいる。これが面倒。その口を止めるには、恩返しをすればいいのだ。
 亀田は恩を受けるのが実はいやなので、誰に対しても恩着せがましいことはしたくない。
 だが、本当に返さなくてはいけない恩もある。これが一番の負担だろう。だから人に恩を掛けるのは控えている。自然とそうなるのは仕方ないが。
 いつかは恩返しをしたい人もいるが、まだ返すまでには至っていない。恩を受けただけで、亀田にその力がないため、期待された通りにはいっていない。これはおそらく無理だろう。恩だけ受けて成果を出していない。
 結果はどうあれ、受けた恩は別の形でもいいので、返したい。
 一方的に恩ばかり受け続けると、麻痺してしまう。亀田はその状態になっている。その中には恩とは言えないようなことも多く含まれている。亀田が恩の捨て場のようになっていたりする。恩のゴミ箱だ。
 受け続けるだけで、与えることは殆どないし、受けた恩の成果もない。
 亀田は一度すきっとした絵に描いたような恩返しをしたいものだと考えている。きっと気持ちいいだろう。
 しかし、亀田は一番恩を受けた人には会いたくない。プレッシャーを感じるためだ。返せない恩はリスクになる。
 よく考えると、亀田は恩を施されやすいタイプなのかもしれない。だから恩貯金が増え続けている。負債としての恩給だ。
 まあ、無事に何とか生きておれば、それが恩返しになるのでは、と思うようにしている。
 
   了


2021年4月8日

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