小説 川崎サイト



領地

川崎ゆきお



「疲れましたなあ」
「蒸し暑いからのう」
「用事で?」
「いや、自転車でうろうろと」
「まだ、日中は暑いでしょ」
「少しはましじゃよ。で、お宅は?」
「あなたと同じようなもので」
「不審自転車巡回じゃな」
「何かいいことでもありそうだから」
「それはあり得るのう」
「何か拾い物をしましたか」
「昼間は先に拾われる。深夜がいいのう」
「酔っ払いが財布でも落とせば御の字なんだけど」
「それは滅多にないのう。あり得るとすれば封筒とかカバンだ」
「そこに札束が」
「そうそう」
「やはり、その期待感は大きいと言うべきですね」
「そうそう、夢と希望がある」
「あり得ない可能性じゃないですね」
「そうそう、だから走れる」
「走る?」
「自転車で走れると言うことよ」
「まあ、それは特別賞として、普段は?」
「普段は健康のためじゃな」
「いい、運動になりますからね」
「お宅は、普段は?」
「僕の普段ですか?」
「そうそう」
「何となくぶらぶら、まあ、気晴らしですか」
「あのバス道から向こうは、行かんほうがいい。たまにならいいがな」
「どういうことでしょう?」
「領主が違う」
「領主?」
「わしの領地との国境でな」
「あなたも領主なのですか」
「あのバス停と、川の堤防まではな」
「広いですねえ」
「あそこの神社に森がある。西の果てじゃ。東は工場の前まで」
「じゃあ、僕はあなたの領内に」
「遠慮することはない。楽市楽座じゃ」
「はあ」
「じゃが、あのバス停の向こうの領主は融通がきかん。追い出そうとする。注意が必要だぞ」
「領地はどうして決まるのですか?」
「毎日巡回すればいい」
「じゃあ、僕も、まだ領主のいない場所を地道に巡回します」
「サボると取られるから注意が必要じゃぞ」
「参考にします」
 
   了
 
 



          2007年9月14日
 

 

 

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