小説 川崎サイト

 

夢を見る


「別のものを見たいのなら、夢を見なさい」
「いつもと違うものですね」
「その延長でもあるし、また、まったくかけ離れたものもある。ただしリクエストはできん」
「見る夢は自分で考えたり思ったりするのではありませんか。あ、そうか、自分でリクエストしないで、適当な夢、人の夢を借りて、人の夢を実行すればいいのですね。自分の夢ばかり追わないで、他人の夢を実現させるとか」
「そんな面倒な話ではない。夜見る夢じゃ」
「何かクイズみたいですねえ。確かにリクエストできません。でもそれは現実じゃないでしょ。僕が言っているのは現実上での目標とか目的です。少し遠いので、夢のようなものかもしれませんし、もしかすると叶わない夢かも」
「どうして、そんな難しく考える。夢というのはいつものものに飽きてきたので、傾向の違う、別のものが見たいということじゃ。それなら、夜見る夢で十分ではないか。こちらの方がリアルだったりする。何故なら、リクエストできんし、その展開も夢任せ、コントロールできん。現実よりリアルかもしれんぞ」
「夜見る夢なんて見ても、何も得られません」
「しかし、満足のいく夢もあるじゃろ。目覚めると、満足を得ていたりする。ただし夢なので、そのあとはない。似たような夢をまた見ることもあるがな、まるで続編のような」
「でもそれは現実じゃありません」
「現実で夢を果たしたとしても、そのあとがあるし、そのメリットもあるじゃろうが、リスク、デメリットもある。夢を達成させただけでは済まん。しかし、夜見る夢はそれっきりで後始末なし」
「確かにそうですが、僕が言っている夢はそういうものじゃなく、生きがいのようなものです」
「何もなくても生きておるじゃろ。美味しいものを食べれば美味しい。それだけでも十分生きがいじゃ。生きがいなど探さなくてもいっぱいあろう」
「今までと違うものが見たいのです。また違う体験を」
「夜見る夢でも叶うじゃろ。ただしリクエストできんがな。それに悪夢もある。今までとは違うものじゃが、見たくはないものも見てしまう。現実なら目を逸らせるが、夢はそうはいかん。まあ、極限に達すれば目は覚めるがな。夢の方が現実以上に理不尽。リアルな世界よりもリアルだったりするし、リアルの世界で有り得ない荒唐無稽なこともある。現実よりも幅が広いのじゃ」
「でもリクエストできなければ何ともなりませんし、コンロールできないのも面白くありません。それに誰にでも夜見る夢は見ることができるし、凄い夢を見たからといって自慢できませんし」
「そうじゃなあ。夢など見ない夜もある。見ても覚えていなかっただけかもしれんしな。夢が上映されているのに、寝ていたんだろう」
「最初から、寝ているんじゃないのですか」
「おお、そうじゃったなあ」
 
   了


 
   


2021年5月7日

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