禁足の地
「決め事があってねえ」
「はい」
「これはやってはいけないとか。これは月に一度ぐらいならいいとか。これはその気になったときだけやり、習慣化させないとか」
「日常のことですか」
「多岐にわたる」
「はい」
「まあ、自分で作った憲法、法律のようなものだが、それを決めたときと、今とではまた違ってくる。いずれにしても破ったからといって罰せられるわけではない。ましてや法に触れることでもない」
「どういうお話しが始まるのでしょうか」
「以前は守っていたのだがね。それに縛られすぎていたようだ。もう別に禁じなくてもいいようなことも多い」
「それはよくありますねえ」
「逆に、以前は好き放題だったが、ここは禁じた方がいいというのも出てくる」
「そういうお話しなんですね」
「キンソク」
「行頭に句読点があってはいけないのですね」
「それは禁則。私が言っているのは禁足」
「足止めですか。動けないわけですか。外出しないとか」
「それじゃ社会生活はできんだろ。そうではなく、特定の土地には行かない。場所でもいい。また方角でもいいがね。いずれも生活上、支障が出るような禁足じゃない」
「禁足地があるのですね」
「立ち入り禁止じゃないが、入ってはいけない場所がある」
「忌み地のようなものですか」
「そうだね」
「そちらのお話になりますか」
「私は色々なところに出掛けるのが好きでね。そろそろ禁を外してもいいのではないかと思うようになった。もういいだろうということでね」
「それは法律で禁じられている場所ですか」
「いや、ゆるい。まあ、隣の家に勝手に入り込めば、それだけで犯罪だろう。そういうことを普通しないのは、そんな用事がないためだ。普通に訪問すればいい。空き巣なら別だがね」
「じゃ、どの場所に行かれるのですか」
「これは私だけの禁足の地、場所なんだ」
「はい、どこでしょう」
「夢の奥」
「そちらの話になっていきますか。それは一寸」
「夢の奥の扉は禁足空間でね。入ってはいけない。そこへそろそろ行ってもいいのではないかと思うようになった」
「まさか、夢の奥に黄泉の国へと繋がる廊下でも」
「黄泉の国か、いいたとえだね。そうじゃないが、そうかもしれん。入ったことがないのでな。入口があるのは知っていた。開かずの扉のようにね」
「しかし、そういうお話しは一寸」
「どうしてだね」
「もう現実の話じゃないでしょ」
「いや、私にとっては非常にリアルな現実だ。おそらく、今、私が見ている現実よりも、本物かもしれない」
「でも、夢の奥でしょ。それは眠っていないと行けませんし、そんな夢を見るかどうかは分からないわけでしょ。さあ、行こうと思っても」
「そうだね。しかし、たまに夢の向こう側が見えることがあるんだよ。ただの入口だがね。そのとき、入ってみようと思うんだ」
「でも夢を見ている状態でしょ。そんなコントロールが効くのですか」
「たまに効くことがあるんだ。しかし、夢を弄ると、グチャグチャになる。だから、そっとだよ、そっと」
「一寸お話しが、危ないので、このへんで」
「そうか」
「次は普通の話でお願いします」
「そうだね」
了
2021年5月18日