小説 川崎サイト

 

照る照る坊主


 梅雨の晴れ間。空は晴れても気が晴れない吉田は、いっそ雨で陰っている方がいいと思う。しかし長い間、陽の下を歩いていないので、日光浴が必要。少し照りが必要。日焼けではないが、軽い照り焼き。 照ると言えば照る照る坊主。吉田は幼い頃、これが怖かった。紙を丸めてまん丸の頭を作り、スカートのようなものを履かす。マントだろうか。顔からいきなりスカート。これが怖かった。もう少しリアルな照る照る坊主もあり、それは端切れを使ったもの。
 照る照る坊主なので、坊主頭。そこに目鼻はない。のっぺらぼう。これものっぺら坊という坊さんだろうか。しかし、子供のことを単に坊やと呼ぶ。僧侶ではない。
 物知り顔の近所のお爺さんが、照る照る神がいるといっていた。確かにいそうだ。照と付く神はいるだろう。
 照る照る神は陽を照らす神。だから日の神様、太陽信仰だろうか。まあ、天照大神もいるが、太陽信仰の神は多い。世界中にいる。
 吉田は照る照る坊主の上位にいるらしい照る照る神を信じていた。物知り爺さんの戯言だと思うが、照る照る坊主は子供なので、親がいる。それが照る照る神だと思っていた。だが見たことはない。
 お爺さんの嘘なので。
 しかし、いそうな気がする。ただ、照る照る坊主のような形はないのかもしれない。
 照る照る坊主に雨が降らないように願うと、それを照る照る坊主が、照る照る神に伝えると言うことだろうか。太陽に伝える。
 照る照る坊主は雨乞いとは逆で、やんでくれと言っている。また、今ではなく、明日天気になってくれと、一晩置く。だから即効性はない。
 吉田はその幼い頃の世界を今も引っ張っている。照る照る坊主を作るわけではないが、呪術性のようなもの。
 しかし、そんなマジナイごとや、呪器を使うわけではない。また、お守り袋も持っていない。
 しかし、あっちとこっちが何かで繋がっているのではないかと密かに思う。既に大人になっている吉田なので、それは口には出さないが。
 その日、晴れた。誰かが照る照る坊主を吊したためだろうか。そんなはずはないと思いながら、外に出て、少し歩いてみた。
 日は出ているが、それは照る照る神ではない。しかし、吉田の中では、それは神様なのだ。しかも適当なことを言っていたあのお爺さんの出鱈目だと分かっているのだが。
 
   了


2021年5月26日

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