小説 川崎サイト

 

君原ワードル


 君原はいつも自分の時間の中にいる。君原の時間。君原の世界だろう。特殊な世界ではない。
 ところが人と会うと自分の時間ではなく、他人の時間になる。君原ワールドが崩れる。だから、人と会うのを嫌がった。別に嫌なだけで、特別なことが起こるわけではない。
 自分のペースを人の影響で乱されるのが嫌なのだろう。ただ、いいことならいい影響を受けるが、大概の用事は嫌事が多い。大事な用事でもそうだ。
 君原は君原ワールド内に浸りきっている。その日常は大した変化はなく、似たような日々を過ごしているのだが、他人に邪魔されたくない。自分の時間が人の時間になるためだ。
 それで一切、人とは接しないというわけではない。自分の世界に踏み込んでこない相手なら問題はない。挨拶程度なら数秒ですむ。
 ただし、他人の時間に巻き込まれないで、君原の時間を維持できる場合もある。君原がリードするためだ。逆に言えば、相手は君原ワールドに巻き込まれ、君原に時間を取られてしまうのだが。
 この君原ワールド、非常に価値があるものではない。自分のペースで過ごしたい程度。だから、自分のペースが保てる用事や相手なら、問題はない。
 しかし、普通に世の中で生きていると、そうもいってられないので、仕方なく、人のペースにはまることになるのだが、できれば避けたい。避けられるものなら避けて通る。
 他人のために何かをするのはいいのだが、それは君原ワールドの中での話。
 では君原の世界とは何だろう。これはいつものような暮らしぶり、過ごし方程度。だから大した世界ではない。それが少しでも崩されると、嫌なだけ。決して人が嫌いなわけではなく、そういうのが日常の中に入れたくない。人疲れするためかもしれない。
 快い人疲れもあるが、それは余程の相手だ。
 では、何故自分の世界を維持したいのか。これは疲れないためだろう。単純なこと。
 他者の欲求や欲望や思惑。そういったものからの射撃。君原は打たれ弱いので、だからこそドンと構えないで、回避することで、自分の世界を守っているのだろう。
 
   了
 


2021年5月27日

小説 川崎サイト