小説 川崎サイト



滑稽な顔

川崎ゆきお



 顔の面積の割りには目鼻が中央に寄り過ぎ、太い眉は下がり、その下の目玉は真ん丸で、飛び出している。
 鼻の穴は上を向き、それもかなり丸い。口は小さいが唇は太い。
 そして小太りで背は低く、なで方で顔が大きい。
 坂田のこの顔を見た人は驚く。よく見なくても抜きん出た印象があり、滑稽さが全体を覆っている。
 しかし精神はいたって健全で、国立大学を卒業している。勉強ができない人間ではないが、飛び抜けてできるほどではない。
「顔を見たら笑う。いや吹き出す奴もいる」
「俺は慣れたから何ともないよ」
「それは救いだ。慣れてくれればいいんだ。何ということはないはずだ。僕も慣れた」
「それって、肉体的な問題なんだろ」
「非常に厳しい言い方だな」
「慣れたからこそ言えるんだ」
「まあ、思っていることをそのまま言ってくれるほうがありがたい。黙って笑う奴よりましだ」
「そんな失礼な奴がまだいるのか」
「あからさまじゃないけどね。そう思っているのはすぐに分かる」
「気配のようなもの?」
「空気が読めるんだ」
「今日来たのは、頼みがあるんだ」
「金は無いぞ。僕も今苦しいんだ」
「そうじゃない。ちょっと人と会ってくれればいい」
「誰と?」
「取引先だ」
「君の仕事関係の人間か?」
「そうだ。礼は弾む。会社の経費で出る」
「相手を笑わせればいいんだな」
「察しが早いなあ」
「根本的な解決にはならないぞ」
「いいんだ。一緒に横に座ってくれればいい」
「他には?」
「喋る必要はない」
「失礼な頼みだな」
「刺激を与えるんだ」
「取引先にか」
「そうだ」
「役に立つなら、やってもいい。人助けだ」
「秘密兵器だ」
「もう、何度もその役は会社でやってるよ」
「なんだ、慣れた話か」
「だから、言ってるだろ。目先を変えるだけで、根本的な解決にはならないって」
「和らぐ」
「ギャラは高いぞ」
「分かってる。君への慰謝料だ」
「傷つくからな」
「ダメージ代だ」
 坂田は同席した。
 しかし、取引先も坂田と同じような人間を横に付けた。
 坂田は思わず吹き出した。そして自分などまだまだだと思った。
 
   了
 
 


          2007年9月19日
 

 

 

小説 川崎サイト