茶番劇
「新堂殿の動きが怪しいです」
新堂孫三郎。重臣の息子で、最近あとを継いだ。しかし、新堂家は目立たない存在で、誰も注目していなかった。
「どういうことじゃ、新堂の小せがれだろ。大したことはないと思うが、切れ者と聞いておる」
「切れます」
「鎌鼬のようにか」
「さあ、それは分かりませんが、動きが活発です。これは体制を覆すのでないかと思う動きです」
「主席家老はどうしておる」
「もうお年です。いるだけです」
「志垣老はどうじゃ」
「昔の勢いはありません」
「しかし、まだ影響力はあるだろ」
「はい」
「長好寺の住職はどうした」
「様子を聞いて参ります」
「そう簡単には、藤堂ごときにやられんぞ」
長好寺の住職から聞きだしたところ、若殿が裏にいるらしい。若返らせるための改革だ。腐った体制を刷新する。
「若殿の命か」
「内命です」
「しかし、住職が知っておるのだから、漏れておるではないか」
「住職は我らの陣営」
「そうだな。八尾谷の牛尾衆はどうしておる」
牛尾衆とは、この地の豪族で、地元の人間だけに、他所から移ってきた領主よりも、影響力があったりする。
「はい、牛尾衆のオサにも、伝えておきます。新堂の動きが怪しいと」
「筑紫屋にもな」
この城下最大の豪商だ。
「どうじゃ、その後」
「新堂の動きが止まりました」
「そうじゃろ」
「改革派は、大人しくなりました」
「しかし、若殿は不満でしょ」
「家督を譲ったとはいえ、大殿がまだいる」
「そうですね。新堂の動きなど、気にする必要はなかったのですね」
「もう、そのぐらいでよかろう。あとはわしが新堂と会う」
「はい」
「お父上は大人しい人だったのですがな。あなたは暴れ者のようですが、いや、切れ者だと聞いていましたが」
新堂はツルッとした顔をしている。表情を出さない。
「おそれいります」
「いやいや、今回はここまでと言うことで」
「承知しました」
「簡単だな」
「若殿からの命なので、仕方なく」
「そうだったのか、それはご苦労なこと」
「はい、若殿の言われるように藩政改革など行えば、若殿自身の首を絞めるようなものですから」
「まだ、若いので、それを知らない」
「また、内命があるとは思いますが、そのときもよろしく」
「はいはい、大いに暴れて下され」
「おそれいります」
了
2021年6月16日