小説 川崎サイト

 

ならぬことはならぬ


「雨で何ともなりませんなあ」
「梅雨時ですから」
「何ともならぬものを何とかしたいものです」
「ならぬものは何ともなりません」
「どうしようもありませんか」
「雨のようなものです。止められない。降らないようにさせることはできないでしょ」
「ならぬことですな」
「そうです。ならぬものはならんのです」
「まあ、雨は天然自然なので、これは無理ですが、何とかすれば、何とかなるものもあるでしょ」
「たとえば」
「考えを変えるとか」
「ほう」
「それで、これはならんと思っていたものが、なるようになる」
「コーヒーに角砂糖を一つ入れる。二つはならん。三つなど御法度。これは本人が決めたこと。だから砂糖問題など、簡単に崩れる。というようなことですね」
「決め事ですから」
「その決め事を、あなたは破りたいと」
「そう願っております」
「これは昔からの決まり事。破ったものはいない」
「でも、そろそろいいんじゃないのですかな」
「私はいいが、周囲が許さんでしょ。影響が出ます」
「では、あなたは破ってもいいと」
「そうです。個人的には」
「これは有り難い。賛同者がいる。ならぬことがなる」
「しかし、もうそんなことができても、今更大したことにはならないでしょ。ただ掟破りだというので、少し面倒なことになる」
「はあ」
「その対応が難しいので、やはり、ならぬものはならぬままにしておいた方がいいでしょ」
「じゃ、結局は反対ですか。あなたは」
「そうなりますか」
「なせばなる何事も、という金言もありますが」
「そういうのは全て裏表があるのです。ことわざと同じで、真逆のことを言っていたりするものです」
「でも、ここはなせばなるでいきませんか」
「なせばなるでしょう。しかし、先ほども言ったように面倒なことが起こります。だから、なさないだけなんですよ」
「はあ」
「それに、そんなことをなさなくても、それ以上のことを既にやっているでしょ。違うやり方でね。だから、長く禁じていたことなど、もうどうでもいいこと。しかし、禁じ手を破るという行為は駄目です。別問題ですが、こちらの方が怖いのです」
「はい、分かりました。慣例に従いましょう」
「そうして下さい」
「しかし、破れば気持ちいいでしょうねえ」
「あなただけがね」
 
   了


2021年6月19日

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