小説 川崎サイト



ある感じ

川崎ゆきお



「ほほう、そんな感じかね」
「感じだけでは分かりにくいと思いますが」
「大体の感じは分かったから、それでいい」
「感じって、主観の問題なんですよね」
「えっ」
「あ、失礼」
「主観?」
「部長が感じ取ったものと、一般とは違うかもしれないのですね」
「私が勘違いをしているとでも」
「主観ってもともと勘違いなんですよね」
「何だ、君は」
「部下ですよ」
「それは、わかっとる」
「これが主観ではない事例ですよね」
「そんなことを聞いていない。何でそんな言い方をする」
「遠回しな言い方になりました」
「近道で頼むよ」
「よろしいですか?」
「えっ、何が」
「主観の話です」
「それは終わったじゃないか」
「先程部長が感じ取られたことは、正しく感じ取れていないようなので」
「よく分からん。何の話だ?」
「ですから、先程僕がお話ししたことです」
「だから、その報告は、何となく分かったと言っただろ」
「分かっておられないと思いますね」
「失礼な」
「部下として心配なのです」
「じゃあ、ちゃんと説明しなさい。君の報告がまずいのじゃないのか」
「事実をきっちりお話しました」
「じゃあ、問題はないじゃないか」
「驚かれないのですかね?」
「別に」
「驚くべき事実ですよ」
「よくある話じゃないか」
「それで済まされるのですかね」
「君」
「はい」
「上司に、ねえ、ねえ、とは言わんほうがいいぞ」
「すみません。癖です」
「報告は聞いた。感じも分かった。これで終わりだ」
「部長は僕の報告を無視するのですか?」
「ちゃんと聞いたじゃないか。君の仕事はそこまでだ」
「では、ちゃんと受け止めてくださいよね」
「また、ね、か」
「あ、失礼しました」
「どんな感じかは分かったから、ここは触らないで静観しよう。どうだ、これでいいか」
「はい、何となく感じが分かりました」
 
   了
 
 



          2007年9月21日
 

 

 

小説 川崎サイト