小説 川崎サイト

 

朝顔


 頭の中で思っていることと、実際とは違う。当然だろう。実際のことではないのだから。
 しかし、実際に起こる現実を想定した想像なので、これはリアルな想像かもしれない。ただ、いくらリアルでも想像は想像。
 しかし現実に起こる確率が非常に高い想像なので、現実を見据えた想像だろう。
 頭の中とはいえ、色々なことを思い、考えているのは、現実化するためだろ。
 それ以外はフィクション。想像というよりも、空想。または妄想に近くなる。そちらはリアリティがないので、何でもありで、結構楽しかったりするし、逆に有り得ないような怖いことも頭に浮かんだりする。
 しかし、現実にそうなる可能性は殆どないので、いくら怖い話を想像しても、大したことはない。作り話と同じだ。
 現実に起こる可能性が高く、ほぼ百パーセントの確率のときもある。これがあまり愉快なことではなく、かなり厳しく、深刻なことだと、大したことでなくても、気になるものだ。いっそ、知らないで、いきなり来た方がよかったりする。下手な想像ができてしまい、予想が付くのも考えもの。
 柴田は、おそらく村岡がいるだろうと思い、彼の家へ行ったのだが、当たるはずの現実が、当たらなかった。いつもいるのに。
 玄関で呼んでも出てこないので、帰ろうとしたが、奥から声がする。しかもかなり遠い。奥の部屋からの声よりも遠い。庭からだ。小さな庭が奥にある。そこからの声だと思い、いることが分かったので安堵する。
 しばらくすると、表からではなく、玄関脇の路地から出てきた。裏庭からなら、そちらの方が近いのだろう。しかし、表側にも庭があるわけではない。敷地内の裏側にある庭のため、裏庭と呼んでいるだけ。
 聞けば裏庭で草を抜き、そこに朝顔の種を蒔いたところらしい。
 いつもと少しだけ様子が違う。玄関でチャイムを鳴らす、百パーセント出てくる。留守だったことはない。今日も在宅だったが、裏庭から、そして玄関脇からの登場は始めて。しかし、いることには変わりはない。
 今まで、運が良かったのだろうか。留守ぐらいするだろう。ずっと家にくっついているわけではないので。
 現実はやってみないと分からない。というような大層な話ではない。しかし、一寸だけ展開が違う。中身は同じ。だが、想像では玄関が開き、村岡が姿が現し、まあ、中へ、となるのが従来からの絵。
 それと、朝顔という言葉が村岡から出るのは初めて。そんなことは訪問前には予測さえできないこと。小さななことまで、予測できないのが現実。当然村岡が着ている服装も。
 ただ、それらは訪問の本筋ではないので、訪問目的とは関係しない。
 そして、訪問の目的は、訪問。訪ねることが目的。実際には雑談だろう。その中味までは予測できないし、話すネタなりを柴田は用意していない。どんな雑談になるのかは不明。しかし、雑談内には治まるだろう。どんな話になっても、雑談のうち。
 予想していた現実と少しだけ違う。その違いを見るのも興味深いと、柴田は思った。また、それを見に行くようなものかもしれないとも。
 
   了

  


2021年7月7日

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