小説 川崎サイト

 

通り過ぎた郵便局


 昼食を終えた島田は、行きつけの喫茶店へ行くのが日課。その日も、いつもの道を走っていたのだが、全て裏道。そのため、途中で曲がる必要がある。真っ直ぐな道もあるが、少し遠回りになる。その方が曲がるポイントは少ない。
 その日、いつものように自転車で走っていたのだが、途中で行き過ぎたことに気付いた。曲がるところを直進したのだが、寄るところがあったのをやっと思い出しす。
 それは自転車の前籠に入っている大きな封筒。これを郵便局で出すつもりで出た。
 前方は見ていたが、自転車の前籠など、近すぎてよく見ていなかった。そこに封筒があることを。
 出るとき、そのコース取りを決めたのだが、忘れている。郵便局へ行くための枝道。これは、かなり早い目に通過していた。そのため、右側にある郵便局など、もう後方。だから戻らないといけない。
 喫茶店の向こう側にも郵便局はあるが、帰りに寄るにしても、封筒を持ったまま喫茶店に入ることになる。やはり郵便を出し終えてから、一服したい。
 郵便局は、喫茶店までの道沿いにある。いつもとは違う道だが、遠回りではない。似たような距離。しかし、その道筋は戻りに通ることはあるが、行くときは通らない。同じ道を往復するより、行きと戻りの道を変えた方がいいため。
 宅配で出してもいいが、宛名などを伝票に書くのが嫌だ。部屋でゆっくりと書くのなら別だが、住所などをメモしたものが必要だろう。それが面倒。
 速達で出してもいいのだが、多少遅れてもいい。それほど急いでいないので、普通郵便で出すことにした。
 近くの郵便ポストからでも出せる大きさだが、切手を買って貼らないといけないし、送料も分からない。大凡は分かるが、忘れている。規定内の封筒でペラッとした大きさなので、規格外ではないはず。だから安い。
 それで、面倒なので、郵便局へ行き、そこで差し出せば、切手も貼ってもらえる。手渡しだ。
 それで、行き過ぎたのだが、戻ることにした。ただし、別の道で戻ることにする。
 よく知っている場所なので、迷うことはない。そして、戻りかけたのだが、意外と遠い。かなり行き過ぎているのだ。
 線路を越え、商店街の外れの道へ入り込むと、そこに郵便局がある。
 当然、郵便局の前まで、すっときた。そして、ドアの前に立つと、ドアが開き、取っつきにある秤のある広いテーブルに、封筒を置く。
 郵便はいつもここで出す。それが島田の癖。他の郵便局では駄目なのだ。
 ここでなくてもいいのだが、ここで出さないと、届かないのではないかと、思ってしまうため。そんなことは有り得ないのだが、違うことをしたくない。
 だが、郵便局から郵便物を出す。これは違うことをしているわけではない。宅配便とか、別の方法なら別だが。
 そして、郵便ポストもいけない。そんなところから出すと、届かないのではないかとは思うわけではないが、何か違うことが起こるような気がする。
 道を変える。順番を変える。違う方法で同じことを実現させる。よくあることだが、できれば、いつもの方法でやらないと、落ち着かない。
 そして、島田は無事、郵便を出し、目的地でもある喫茶店へと向かった。
 道中、特に変化はなかった。
 
   了
 

  


2021年7月9日

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