小説 川崎サイト

 

ネギ代


「体調はどうですか」
「まずまずです」
「それはいい。体が資本ですからね」
「その資本はあっても、本当の資本がありません」
「資本は作るものですよ」
「その資本がありません」
「そんなにいらないのです。資本を集めますから」
「その集める資本がありません」
「それは資本とはいわないでしょ」
「切手代が」
「え」
「電車賃が」
「ほう」
「提供者がいても、喫茶店代が払えません」
「別に会う必要はありませんよ」
「でも相手は投資するのですから」
「それよりも、そんなに困っているのですか」
「大丈夫です。生きていけます。生活費はあります。しかし、切手を買うと、ネギを買うお金がなくなり、朝のおみおつけにネギが入らない。これは寂しいです。青いものが欲しい。白ネギではなく、青ネギね。まあ、買ったネギの根っこ部分を植えれば、ネギが伸びるので、それをちょん切ればいいのですが、僅かな量。それに永遠にそれができるわけじゃないでしょ」
「はあ」
「だから、一円も無駄金は使わないようにしているのです。電話代もそうです」
「それで調子は良いのですか」
「はい、健康状態は良いような気がしますが、色々と気になる症状が出ることもあります。一日続くと不安になり、二日目だと、これは長引くと思うし、一週間も続くと、これは心配ですが、まあ、大概はそれぐらいで治ります。ですが、また次のが来る。だから、忙しい」
「今日は大丈夫なのですか」
「はい、ここ数日は異常なしですが、そろそろ来る頃です」
「はあ」
「昨日などは、傘を閉じるとき、怪我をしました。骨の先がパチンときたのです。外れたんでしょうねえ。ビニール傘ですが、傘を閉じるとき、怪我をするなんて初めてですよ。何が起こるか、世の中、分からない。内からだけではなく、外側からも来る」
「もう少し、ゆとりのある暮らしを望みませんか。切手やハガキを買ってもネギに影響しないような」
「そうですねえ」
「投資してみては如何ですか。ネギの根っこを植えるようなものです」
「ネギ代で済みますか。百円程度なら何とかなりますが。数日ネギを我慢すれば済むことです」
「もう少し多くないと、話になりません」
「なりませんか。じゃ、なかったことにします」
「投資すれば、増え、今度は投資を受ける番になります」
「番」
「そうです。親になります」
「それって、ネズミ講でしょ」
「ネコ講です。仕組みが違いますが、最初の投資が少し大きい。それに合法的です」
「でもネギ代以上の金額は」
「残念ですねえ。じゃ、気が向いたら電話して下さい」
「はい、でも電話代が」
「はいはい」
 
   了
 

 

  


2021年7月11日

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