小説 川崎サイト

 

変わらぬ君


「自分を変えないといけないんだ」
「そうだね」
「自分が変わることで世界が変わる」
「そうだね」
「分かってくれたか」
「えーと、何を変えるんだった」
「だから、自分だ」
「自分の何を」
「考えだ」
「ああ、考えねえ。そうだね。考え方を変えれば世界も変わるかもしれないねえ」
「自分を変えないと進歩もない。展開もない。それに自由もない。変える自由はあるのに、変えない理屈はない。変えていいんだ。いや、変えるべきだ。それで、性格も変わる。それで、今まできなかったこともできるようになる」
「薬局の親父みたいだね」
「え」
「効能の説明」
「ま、まなあ」
 それから一年後。
「相変わらず散らかっているなあ、自分を変えていないなあ」
「掃除は別にいいでしょ。部屋を綺麗にするために自分を変えるわけじゃないのでしょ」
「そうだね。僕もあまり掃除していないので、人のことは言えないか。まあ、いい。それよりも自分を変えたか、変えたところを教えて欲しい」
「えーと」
「変えていないな」
「町名変更で住所が変わった」
「それは自分が変えたんじゃない。分かりきったことを言うなあ」
「特に変えていないかな」
「駄目じゃないか、自分を変えないと。僕なんて毎日のように自分を変えている。朝起きると、昨日の自分とは違う。どの自分が本当か分からないほどだけで、一応進歩しているはず。改良だ。改革だ。自己変革だ」
「忙しそうだね」
「ずっと前に変えたところに戻っていたりすることもあるなあ」
「後退だね」
「後退もまた変化。自分を変えることに変わりはない」
「頑張ってね」
「君もサボらないで、自分を変えないといけないよ。じゃ、またね」
 そして、数年後、またやってきた。
「どうだい、その後、色々と部屋の様子が違うけど、自己改革をなしたのかい。自分を変えたんだね」
「いや、いつのまにか」
「まあ、いい。できれば、積極的に、自分を変える作戦を立て、打って出るんだ。変えるんだ。自分を」
「あのう」
「何だい」
「いつも同じこと、言ってるねえ。変わらないなあ、君は」
「え」
 
   了



 


2021年7月19日

小説 川崎サイト