小説 川崎サイト

 


「どうでしたか、今朝の目覚めは」
「怠いです」
「暑かったですからね、夏バテでしょ」
「違いがあるとすれば」
「え、何の違いですか」
「いつもの夜と」
「ほう、どのような」
「扇風機」
「エアコンじゃなく」
「エアコンはありません」
「で、扇風機がどうかしましたか。暑いので、当然付けて寝るでしょ。私なんて家にいるときは付けっぱなしですよ。消すと暑いですからねえ」
「暑いので、扇風機を回していました。手回しじゃないです。それじゃ。余計に汗をかく」
「はい、それで、違いとは何ですか」
「寝ているときじゃありません。夜になってから寝るまでの間の扇風機です」
「え、意味が分かりませんが」
「違いは近さと風力」
「はあ」
「昨夜、あまりにも暑いので、近くに寄せ、風力のボリュームも上げました。気温が下がるわけじゃないが、風を受けているだけまし。確かに強い風が来て、少しは楽になりましたが、生暖かい風が来ているだけなので、それほどの効果とは言えませんがね」
「それが」
「それが、違いです。いつもはそんなことはしない。ここに違いがあった」
「その違いがどうかしたんでしたね」
「起きると、気怠い。いつもよりも」
「原因は扇風機」
「そうだね、風を受けすぎたんだ。寝るときはいつも通りなので、そこは変化はない。同じだ。違いがあるとすれば、寝る前、長い間、強い風を受け続けたこと。そして、そのわりには大して涼しくはなかった」
「じゃ、夏バテじゃなく、扇風機バテ」
「風バテだね。風に当たるのも良し悪し」
「本当にそれが原因ですか。扇風機の風ではなく、昼間暑かったので、熱を受けすぎて、それでバテたんじゃないのですか」
「そうかもしれんなあ。しかし、この気怠さは風だろう。暑さじゃない」
「まあ、私もエアコンが効きすぎて、喉を痛めたり、風邪を引いたりしましたよ。自分のコンディションを把握しにくいのです。暑いのか寒いのか、何かもう分からなくなっていました」
「しかし、本当の原因は分からない。まあ、少し今朝は気怠いので、何かなと考えただけですがね」
「違うかもしれませんね」
「そうだね」
 
   了


 
 


2021年8月10日

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