「最近怖い話、ありませんか?」
青田は恐怖研究家に聞く。
「昔は幽霊だったんじゃがな。最近はとんと聞かん」
「出てるんじゃないのですか?」
「出ていても分からんのじゃろ」
「心霊スポットも暇ですか?」
「歌舞伎と同じでな。見る者の目が肥えておらんとよく分からんじゃろ」
「つまり霊に感じる人が減ったということですか?」
「さあ、それはどうじゃか分からんが、幽霊に関しての感度が落ちとる」
「それで、出ていても分からないのですか?」
「意識がないからじゃよ」
「意識?」
「幽霊じゃという意識だ。もっと他に怖いものがあるようじゃな」
「つまり幽霊はもう流行っていないんですね」
「まあそうだ。能を知っとるか?」
「はい」
「分かるか?」
「いいえ」
「あそこに死霊が出てくる」
「死んだ人ですね」
「だから、まあ幽霊だ」
「そうですねえ。出ていても分からないです」
「今は、そんな状況だな」
「先生は見られたことはありますか?」
「何を?」
「幽霊です」
「ない」
「そんなものですか。恐怖研究家なので、毎日幽霊ばかり見ていると思ってました」
「全国の心霊スポットもよく回った」
「それでも遭遇しなかったのですか?」
「ああ」
「やはり霊が見える人と見えない人がいるんでしょうか?」
「いくら頑張っても見ることができん人間がおる。まあ、そっちのほうが一般的で、見える方がどうかしとるんじゃがな」
「でも、以前は目撃例が多かったのでしょ」
「見えん人間も勢いで見えたんじゃよ」
「勢いで?」
「雰囲気の勢いでな」
「幽霊は死んでも恨みとか未練を残し、この世を彷徨っているのでしょ。そういう人、昔より多いと思うので、幽霊人口増えているはずじゃないですか」
「魂魄この世に留どまりての発想を知らぬのじゃ」
「もう幽霊は古いんですねえ」
「皆が本気で信じていた時代ならうじゃうじゃ出ていたはずじゃよ」
「今は、何が恐怖でしょうか?」
「恐怖があちら側にないことが恐怖じゃよ」
「はい、ありがとうございました。一つのローカルな意見として受け止めます」
了
2007年9月26日
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