小説 川崎サイト

 

夏風邪


 今夜も暑いだろうと思い、今田は寝ていたのだが、夜中、寒くなったことを覚えている。それで慌てて蒲団を掛けたのだが、既に体は冷えていたようだ。
 翌日、気怠い。風邪を引いたのかもしれない。最初は空具合のためだと思っていたが、どうも自分自身の肉体的問題。
 それで、朝から元気がないので、文字通り調子が悪い。これは二三日もすれば治るはずだが、その間、元気がない。
 元気である必要はないのだが、楽しいはずのことをしていても、それほどでもない。そういうことは調子の良いときにやらないと、楽しくないので、損だ。強引にやれば、それなりに楽しめるが、本来の楽しさが差し引かれる。
 逆にしんどいと思える嫌仕事ならできる。どうせやり出せばしんどくなるし、「楽しい」の反対で、苦痛。まあ、のたうち回るほどの痛さではなく、気持ちが暗くなる。
 それで、嫌仕事をやることにしたのだが、しんどいときに嫌々やる仕事はやはり厳しい。
 それで今田は調子が優れないときは大人しくしているのが一番と、ほどほどのことをほどほどにやっていた。
 風邪なので、寝ていてもいいほどなのだが、そこまでしんどくはない。
 また、調子が良くないときに思い付いたようなことはあまり良くないことが多い。何処か不健全。元気すぎてもやり過ぎの発想になる。だから、冷静な判断というのがある。それには冷静にならないといけない。
 しかし、心がけて冷静になれるものではない。今から冷静になるぞ、と気合いをかけてもなれない。その気合いかけそのものが冷静ではないためだ。
「冷静さとは実は霊性なんだ」
 今田は、調子が悪いので、もっと悪い友人宅を訪ね、一席ぶっている。元気ではないか。
「霊性ねえ」
「魂性だと言ってもいい」
「魂ねえ」
「聞いているのか」
「風邪だと言っていたけど、大丈夫なの、まだ暑いよ。夏風邪にとって厳しいだろ。元気だなあ」
「調子が悪いので、調子が一寸狂っている」
「良い調子じゃないみたい」
「君は調子が悪いとき、どうしてる」
「ずっと悪い」
「病気か」
「そうじゃないけど、年中元気がない」
「そういうときの過ごし方を教えてくれ」
「元気がないだけ。それだけだよ。何もしていない」
「でも、何かしてるだろ」
「元気はないが、やっている。仕事だから」
「要するに、方法はないんだな」
「調子の悪いときは悪いままでいいんだよ」
「そういうのを聞きたかった」
「気怠いときは気怠いままでいいし、面白くないときは、面白くないままでいいんだ」
「抵抗せず」
「そう」
「君は調子の悪さに長けているんだ」
「褒められたものじゃないけどね」
「そうだね」
 
   了

 




2021年8月13日

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