小説 川崎サイト

 

勉強になる話


 良くもなければ悪くもない。そのため特に考える必要はない。何も感じないのに近い。そこで立ち止まることもない。
 これが良いと、その良さを喜んだりするだろう。悪いと何とかしないと思うはず。また、悪いと感じることが、そもそも気持ちの上でも悪い。
 何も感じない。感じているのだが、あまり意識にない。この状態がいいのかもしれない。
「ほほう、竹田君、またいいことに気付きましたね。しかし、一度そんなこと、言ってませんでしたか。君は色々と言い出すので、どれがどれだか分からなくなりました。考えることが多いのですね」
「だからこそ、あまり考えないですっと見過ごしてしまうようなことがいいのではと考えたのです」
「考えずに考える。まあ、考えなくてもいいことなので、考えないだけですがね。そういうのが多いと楽ですが、そうはいかないでしょう。色々と問題が出てきますからね。状況は変化します。だから、今までは考えなくてもやってこられたことが、そうはいかなかったりね」
「先生、今日は雄弁ですねえ」
「竹田君のが移ったのでしょ。余計なことを考えてしまうようになりました」
「それはいいことですか」
「さあ、物事にもよるでしょ。考えなくてもいいことを考えたり、考えるべきなのに、考えなかったりとかもね」
「僕はあまり考えていないときの方が幸せではないかと思うのです」
「幸せというのは大ネタですよ竹田君。そんな簡単に使うものじゃありません」
「はい」
「しかし、幸せであることさえ考えないような状態と言いますか、幸せについてあれこれ考えなくてもいい状態が幸せなのではないかと思うのですが」
「ええ、ややこしいことをまた言い出しましたね。それはいつもの竹田節ですよ。捻りすぎ、唸りすぎです」
「臭いですか」
「まあね。しかし、人には?があるもの。喋り方とか、ものの言い方などにね。中味よりも、そのリズムがよかったりして聞き惚れることもあります」
「中味よりもですか」
「お経のようなもの。中味は知らなくても、聞いているだけでそれなりの気持ちになります。もの凄く落ち着いたりします。だから、中側ではなく、外側だけでもいいのですよ。ガワだけ、殻だけでもね」
「今日は先生の方が雄弁です。負けます」
「まあ、普通にすっとやっていくのがいいのでしょうねえ。わだかまりや拘りでギクシャク進むよりも」
「勉強になりました」
「いや、君に教えられたからですよ」
「そうでしたか。でも、あまり語りすぎると、安くなります。僕のように」
「そうですねえ」
 
   了


2021年8月19日

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