小説 川崎サイト

 

お盆の雨


 仏壇前に電気提灯が置かれている。二つ。散髪屋ではないが、回る。パチンコの電動ヤクモノではないが、777が揃い、フィバー状態のように派手な色がカラオケのミラーボールように回っている。
 玄関先にエンジン音。すぐに止まる。坊さんが来たのだろう。しかし、かなり間を置いてからチャイムを鳴らした。
 スクーターを玄関脇に止め、合羽を脱ぎ、トランクの上に乗せている。
「雨で大変だったでしょ」
「いやいや、お勤めですから」
 坊さんの読経が始まった。月参りのお経よりも短い。回る家が多いのだろう。
 島村はお茶を出すが、唇を湿らせただけで、お布施だけ取って、さっと立ち去った。例年のことだ。
「お爺ちゃん」
 島村の孫が話しかけてくる。夏休みで遊びに来ていたのだ。
「ご先祖さんが来てるの?」
 屋内の土間で迎え火を焚き、煙たがられたが、昔は、そこでサンマを焼いていたのだから、問題はない。天井板が黒くなっているのは、そのためだ。ガスなどなかった時代、その土間で、煮炊きなどをしていた。竈はご飯専用。
 また、仏壇の飾り付けなどを見ていた孫は、ご先祖さんが帰ってくると言うことを、初めて知った。その年になっていたのだ。
「そうじゃな」
「でも雨で帰るのが面倒だったりしない」
「するかもしれんなあ。客足も減るだろう。雨ではな」
「じゃ、ご先祖様も来ていないかもしれないね」
「いや、雨は関係がない」
「足がないから」
「それは迷信だよ」
「じゃ、どんな方法で雨の中、戻ってくるの」
「歩いてじゃない。空から舞い降りてでもない」
「じゃ、どうやって」
「ワープだよ」
「ああ、なるほど。だったら雨が降っていても関係ないね」
「迎え火も本当はいらないんだ。仏壇に直接来られるので」
「仏壇がなかったら」
「位牌」
「位牌もなかったら」
「過去帳」
「それもなかったら」
「写真だろうねえ。それが置いてある場所」
「それもなかったら」
「この飾り提灯でもいい、何かそれらしいものを出しておけば、そこに来る。お供え物とかね」
「うちは、仏壇があるから、そんな工夫はいらないね」
「そうだよ」
「お爺ちゃんも仏壇から、あっちへ飛ぶの」
「ははは、大きい目の仏壇だけど、エレベーターのように中には入れないよ」
「そうだね」
「はははは」
 
   了

 




2021年8月20日

小説 川崎サイト