小説 川崎サイト

 

天気人間


 天気が変わると気分も変わる。単純なものだ。
 問題の殆どがそれで解決したように岩田はなった。岩田が何かをしたわけではない。
 それで、岩田はこのことを人に言わないようにしている。天気の影響程度のことで困っていたのだから、話が小さい。それに何らかの事柄に関しての解決策ではない。
 しかし、天気が変わると、事柄も変わる。今までやりにくかったことでも、すんなりとこなせるようになる。何か特別な技法を編み出したわけではない。だから、人には言えない。
 岩田はそれを天の恵みと言っているが、晴れたり曇ったり雨だったり雪だったり、嵐だったりするので、恵みだけではない。悪いことも天や地から来る。
 別に岩田を狙い撃ちして、やって来るわけではない。その地域にいる人、全てにお裾分けするようなもので、影響下に入るが、一寸雨とか、一寸晴れとか程度では、どんなお裾分けかが分からない。普段と同じ、日常よくある天気の一寸した差。問題はそんなところにはないだろう。
 しかし、岩田にはある。だから、人には言えない。
 雨の日は調子が悪く、晴れておれば調子が良い。曇りだとどちらでもない。という単純なことではなく、雨の日ほど調子が良く、晴れている日はさっぱりとかもある。微妙だ。
 しかし、そういう違いなどを人には言えない。言ってもいいのだが「あ、そう」「あ、そう」と何度も「あ、そう」が返ってくるだけだろう。
 しかし、岩田を左右しているのは、天候なのだ。創意工夫でもなければ努力でもない。素晴らしい発想力や、地味さに耐える力でもない。継続性の素晴らしさでもないし、瞬発力の強さでもない。
 晴れているか曇っているかだけで左右される。だから、何もしていないのと同じだが、やり方が変わるのだ。
 この自然の変化、結構ランダムに来ている。これがいいのだろう。予測はできるが、晴れておればいいというわけではない。岩田が抱えている問題との兼ね合いで決まる。天候が薬にもなれば毒にもなる。
 その天候、ただの晴れや雨だけではなく、気温や風速、湿気や気圧なども含まれている。だから、単純なものではない。
 自然に身を任せるとはそのことだが、悪い状態ばかりになると難儀だが、天気は続くものではないので、何処かで良くもなれば悪くもなる。似たような天気の日はあるが、少しずつ変わっていく。
 晴れていても雲が多い日もあるし、雲一つない快晴もある。雨もそうだ。同じ雨の降り方でも、少し違う。
 そういうことが岩田に影響し、岩田はそれに便乗する。身を任せるのだ。
 しかし、そんなことは、やはり人には言えない。
 
   了

 

 




2021年8月21日

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