小説 川崎サイト

 

薬師と祈祷師


 旅の薬師と旅の祈祷師がコンビを組み、諸国を回っている。薬師は薬売りではなく、調合したり、病人を診たりする人。だから何かを売り歩いているわけではないが、祈祷師と知り合い、特別な薬を作り、それを売っている。
 この祈祷師はただの占い師なので、いい加減なものだ。薬師はある大名家に仕えていたが、窮屈なので飛び出した。殿様専用の薬しか作らないので、飽きたのだろう。
 祈祷師は半ばペテン師のようなもので、詐欺に近いことをやっていたが、薬師と組むようになってから、特別な薬を高く売りつけることで、物売りに近くなったが、祈祷師が売るのではなく、薬師が売る。だからただの薬の行商だが、そのようには見えない。
 特別な薬。そんなものはない。薬師が特別調合したものではなく、毒にも薬にもならない豆を粉にしたもの。これは何処にでも手に入る。だから、元手はいらない。
 祈祷師は声がいい。呪文を唱えるのだが、それはオリジナル。誰も聞いたことはない呪文だが、何処かで聞いたところも入っている。それと?がいい。お経のように単調ではなく、聞いていて飽きない。これは祈祷師が作曲したのだろう。そんな楽譜はないが。これを聞いているだけで癒やされる。
 そして、お代は取らない。しかし結局は薬。この薬が少し高い。売るのは薬師だが、元御殿医。それが処方する薬なのだから、高い。ただ、薬は一種類しかなく、同じ粉だ。
 裕福な人は祈祷を受け、毒にも薬にもならない薬を飲む。
 それを生業にしているのだが、実はこの二人、大旦那や、身分の高い武家から、色々な相談を受けることがある。祈祷や薬とは関係のない困りごと。
 薬師は豊富な知識を持っており、学僧程度の学識がある。祈祷師は世間師のように、世の中のことをよく知っており、また人を見る目がある。これはパターン化して覚えているのだ。また人情の機敏も心得ている。詐欺紛いのことをしていたので、そのあたりは上手い。
 この二人が諸国遍歴中、様々なことに遭遇し、ときには大きな事件を解決したりするのだが、枚数が尽きたので、今日はここまで。
 
   了



2021年8月27日

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