小説 川崎サイト

 

きつねうどん


 とある窓口で用事を終え、下田はほっとした。これで今回の用事が片付いた。短期間で終わったが、不慣れなことなので、少し疲れた。
 窓口を出た下田は、外に出たのだが、降っていた雨もやんでおり、夕方が近いためか、夕日が雲の中から弱い光を放っている。丸さはあるが輪郭はぼやけている。
 雲は動かないようで、それ以上輝かない。見えていたとすれば、眩しくて見てられないだろう。
 さて、一件落着、少しのんびりできる。その用件で日常が崩されたわけではないが、終わるまでは気が抜けなかった。といっても誰でもできるようなことなので、大したことを成したわけではない。
 一人暮らしで自炊の下田はこの時間はスーパーへ行く時間なのだが、毎日ではない。買い置きの食材などがあるので。
 しかし、一段落つき、解放されたので、何か別のことがしたくなった。それは弁当。
 弁当が何故特別なことなのか。これは下田にとっては特別なのだ。自炊しないで、買ってきて、そのまま食べる。これは滅多にない。理由は簡単だ。弁当などいつも同じようなものなので。
 しかし、たまにならいい。それで、スーパーへ寄ることにした。弁当だけを買って帰る。難しい問題ではない。誰でもやっていること。
 しかし、弁当は売り切れていた。いつも一つぐらいは残っているのだが、入った時間が遅かったようだ。
 これで、予定が狂った。一つ段を上げてにぎり寿司の盛り合わせにしてもいい。弁当よりも高い。しかし、それは特別な日だけに買う程度。何が特別なのかは決めていないが、今日はそれではない。
 それで予定が狂った。最前までやっていた用事よりも難しい。
 大きなミックスピザが目に入ったが、出来上がったものではない。一度買ったことがあるが、温かい乾パンのようで、硬くてピザを味わうどころではなかった。食パンのように柔らかか過ぎると、ピザらしくないが、ピザトーストもあるので、生地に拘らなければ、それでもいい。
 それならサンドイッチという手もある。夕食としては何とかなりそうだ。それにお膳も箸もいらない。
 しかし、この店、サンドイッチは置いていない。パンは色々とあるし、ケーキ類もあるのに、サンドイッチだけがない。
 サンドイッチが欲しければ、コンビニ行けばすむ。しかし、コンビニへ行けば弁当があるはず。だから、サンドイッチよりも弁当を買ってしまうだろう。
 それに折角入ったのだから、このスーパー内で済ませたい。
 そして一段下げ、アルミ鍋のきつねうどんにした。かなり安いので、下げすぎだ。
 折角用事が終わり、自分をねぎらうつもりで弁当を食べたかったのだが、きつねうどんなら、それほどのものではない。中味も下げすぎだ。
 一段落ついた仕事、トラブルはなかった。しかし、夕食で段取り通り行かなくなってしまう。そのまままっすぐ帰っておれば、自炊で難なく済んだのだ。
 アルミ鍋のきつねうどん、すぐには食べられない。ぶっかけうどんもあったが、それは好きではない。
 そしてアルミ鍋を温め、きつねうどんを食べる。
 悪くはなかった。食べ物よりも、仕事が一段落ついたことの方が大きいのだろう。
 
   了




2021年8月29日

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