小説 川崎サイト

 

令和枯れススキ


「暑いですねえ、夏が戻りました」
「まだ勢いが残っていたのでしょ。残暑というやつですよ。あとは衰える一方、私達と同じです。そろそろ身の振り方を考える時期ですぞ」
「でも、こうして暑い夏がまた戻る日もあるのですから、まだまだいけるかと存じます」
「残り火、線香花火の終わりがけの勢いのようなもの、一瞬凄い火花が出るが、それを最後にシュンとなる」
「しかし、長くここにいるので、居心地はここが良いです。今から別のところへ行くのは面倒かと」
「誰でもそうです。しかし将来を見測ったたとき、成すべき事が何かが見えてくるはず」
「見て測るのですか」
「そうです。ここにいても先がない」
「それは分かっているのですが、動くのが面倒臭くて、それに将来はもういいです」
「あ、そう」
「自分そのものの勢いがもうありませんから、勢いの良いところ、盛んなところへ行くのは疲れそうで」
「そんな保守的な」
「いや、何も守っていませんよ。むしろ後退を望んでいるほどなので」
「それはまあ、私にも思い当たる節があるので、否定はできませんがね。しかし、まだ一花咲かせたい。それには、ここでは駄目だ」
「一花ですか。でも咲いてみせればすぐ散らされるのが世の常。それなら咲かない方がよろしいのではありませんか」
「花の咲かない枯れススキでは淋しいでしょ」
「枯れたからでしょ。だったら咲かなくて当然じゃないですか」
「まあ、そういう意見もありますがね。一つの意見として承っておきましょう」
「一つじゃなく、それしかないでしょ」
「そうだね」
「じゃ、やはり、ここに残りますか。私は残ります。あなた、どうなされます。行きますか、別世界へ」
「行かねばならぬことは分かっておるのですが、私も腰が重くなって、動くのが大層に」
「そんな重い腰つきでは新天地での活躍もないでしょ」
「まあ、そうなんですがね、一応そういう積極的態度を示さないと」
「能動的な」
「そうそう」
「しかし、今日は久しぶりに暑いです。ここも、まだその程度の勢いはありますよ」
「そうだね」
 
   了




2021年8月30日

小説 川崎サイト