小説 川崎サイト

 

サビスします


 穏やかな日は続かない。大事はないが、小事がある。その小事が大事ほどに目立つ。忙しいときは大事に気を取られている。そこでの小事は目立たない。取るに足らぬこと。しかし、穏やかな日々の中での小事は、取ってしまう。価値があるからではない。
 どうでもいいような小事。しかし、それが大事に至らないとも限らない。その芽はどんな事柄にでもある。
 立川は穏やかな日々を送っているときほど、その小事が大事に見え、大事にしている。大切に扱う大事ではなく、大きな禍などになる大事だ。
 どちらにしても大事は大事に扱わないと、大事を長引かせたりこじらせたりする。
 しかし、立川の目の前にあるのは、まだまだ小事。だが、それが大事に見えてくるので不思議。大事なことほど大事にする。大事なので、大切に、丁寧に扱うのだが、小事ではそこまで気を遣わなくてもいい。
 穏やかな日々、それはいいのだが、妙に落ち着かない。それで立川は穏やかではない日々になるように心がけた。わざわざそちらを選び、荒っぽいことをやり始めたのだが、そちらの方が調子がいい。心を鎮めているよりも、乱れている方がよかったりするので、不思議だ。
「ほう、それは分かるような気もするが、分からんような気もする」
 友人は曖昧な解答を与えてくれた。そういう話が面倒なのだ。
 それで立花は、もっと丁寧に言ってくれとリクエストした。
「まあ、動いている方が安定しているのもかもしれないね。行ったり来たりとか、左へ行ったり右へ行ったりとか、いつも微動しているような状態の方がね」
「自転車みたいだね」
「そうだね。ゆっくり過ぎると、不安定になる。止まったとき、足を付くだろ。足を付けないで止まるのは難しい」
「だから、動いている方が安定しているってことなんだな」
 その友人、比喩が苦手らしい。だから、それ以上の説明を避けた。
 立川はそれで、穏やかな日々というのはあまり良いものではないことを知る。そんなものを知っても仕方がないのだが、居心地が悪いのだ。
「これで、謎が解けた。ゆっくりしていないで、色々なことに挑戦してみる」
「大層な」
「まあ」
「しかし、君が思っていることは小事だが、なるほど大事になる可能性もある」
「本当」
「ああ」
 その友人、それはサービスで言っただけなのだが、立花は気付かなかったようだ。
 
   了

 


2021年9月13日

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