小説 川崎サイト

 

聖地巡礼


「天気が回復しましたねえ」
「台風が持って行ってくれたのでしょ」
「久しぶりの秋の空です」
「そうですねえ、飽きるほど見ておれば、また別なんでしょうが」
「いい気候です。暑くもなく寒くもない」
「天気が悪いと、行く気がしなかった行楽地に出掛けられます」
「何処ですか、観光地ですか」
「それも含まれますが、観光化されていない場所もあります」
「色々とついでに回るのですね」
「はい、寺社参りです」
「巡礼のような」
「まあ、一日で回れる寺社は限られていますがね、その続きです。お寺は案内板とかが出てるし、札所もあるので、朱印なども貰えますが、神社はねえ、これは一寸別です」
「お寺だけならシンプルでいいのに」
「いや、途中にある神社も気になりますし、小さな祠とかも。お稲荷さんでもいいいのですよ。立派なものもあります。小高いところにあったりします。頂上です。よく見ると古墳だったりします。すると今度は古墳として観察する。それで手間取ります。余計な寄り道ですからね。しかし、そういうルールを作っているのです」
「誰が」
「私がです」
「そうなんですか」
「だから、お寺だけなら、簡単に回れますよ。寄り道しなければ。次のお寺が遠いと、電車やバスに乗ります。しかし、急いで回る必要はない。さっさと済ませてしまいますと、ネタがなくなる。まあ、また同じコースを一から回ればいいのですがね。そういうこともやりました。二回目だと知っているので新鮮さはありませんが、前回気付かなかったこともありますし」
「暇なんですね」
「まあ、これが私のイベントです」
「今日はいい日和なので、行きやすいですねえ」
「そうです。前回の続きから入ります」
「何処ですか」
「住田神社です」
「知りません」
「白峰寺の近くです。私が発見しました。しかし、神社跡で、もう建物はありません。石柱が立っているだけ。これもまた古い。文字がよく見えない」
「建物も無いような神社跡に行っても仕方がないでしょ」
「そうですねえ。しかし、それが私のルールなんです。それも含めて立ち寄ります。まだ見付けていないようなものも多くあるはずです。しかし、敢えて探すようなことはしません。ただ、この辺り、臭いなあというのがありまして、そのときは見に行きます」
「たとえば」
「こんもりとした森とか、盛り土ではないかと思える岡とか。まあ、森という規模じゃなく、小さな繁みですがね。大きな繁みだと、これはお寺が入っていたり、神社だったりします。まあ、その方角から入るのが初めてなら、分かっていても行きますがね」
「良い趣味ですねえ」
「探索ロボットのようなものです。ほぼオートです」
「良い趣味をお持ちで」
「いえいえ」
 
   了

 


2021年9月22日

小説 川崎サイト