小説 川崎サイト

 

夜の神社


 誰もいないはずの夜の神社。鎮守の森に囲まれた村の神社。規模は小さいが、一ヶ村に一つはある。なければ駄目というわけではないが、お隣の村の神社へ行くわけにはいかない。敵同士ではないが。
 今は、そんなことはなくなり、住宅が田んぼに生えたような状態で、人口は余所者の方が多い。当然氏子ではない。また氏子になるのが逆に難しいのではないかと思われる。古い共同体なので。
 そんな村の静かな神社、その社殿に明かりが灯り、硝子格子越しに人の姿が見える。数人いる。そして動いている。
 夜といっても彼岸頃、昼と夜が同じになるのだが、初夏に比べて暗い。だから夏ならまだ夕方の時間かもしれない。
 だが、夜中に神社の明かりが灯り、その中で何者かが蠢いているように見える。しかも複数。
 白根は買い物の帰り、近道で、よくこの神社前を通る。ここを通りだしてから二年ほどだが、毎日ではない。そのため、明かりがあるのが珍しかったのだろう。
 時期的には秋祭りの準備かもしれないが、この旧村の寄り合い場所は、別にある。別に社殿の中で集まる必要はない。
 それにしては、鳥居前とか、境内とかに自転車などが一台も止まっていない。当然車やバイクも。
 余程近いところに住んでいる人だろう。だから、氏子や関係者が、社殿の中を掃除でもしているのだろうと、白根は普通に考えた。
 硝子格子から見えているのは影ではなく、照明が当たっている。だから、どんな人がいるのかが見えるのだが、鳥居前の道からはそこまでは見えない。それで白根は、自転車を脇に止め、そっと石畳に足を踏み入れたのだが、向こうからも見られていそうだ。しかし、中側よりも境内の方が暗い。
 白根は用心し、横に回り込み、斜めから覗き見しようとした。
 そんなものは見なくてもいい。逆に白根の方が怪しいではないか。どうせ氏子や関係者が中を掃除したり、飾り付けを直したりしている程度だろう。密談をしているようには見えないのは、全員動いているためだ。誰も座っていない。
 白根は横からそっと硝子格子の中の一枚の硝子、これは大きな枡だ。そこから斜めに中を見た。
 人ではない。
 しかし、よく見ると、面だ。動いているのは掃除ではなく、踊りの練習だったようだ。
 これで終われば、何でもない話。
 ほっとすると同時に、どうせそんなことだろうと合点したとき、肩を叩かれた。
 白根は振り返った。そして、それを見た。
 白根は合点できなかった。
 
   了


 


2021年9月26日

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