小説 川崎サイト

 

妖怪小屋


「何処まで来ましたかな」
「まだまだ先です」
「何処まで来ました」
「僅かです。先ほど出たばかりなので、まだまだ先です」
「もうかなり来たような気がするが」
「遠いですから」
「ふむ」
「日が沈むまでに着きましょう」
「何処かで休みたいのじゃが」
「そうですねえ。この先に何かあったような気がします。開いておればいいのですが」
「茶店ですか」
「何かの小屋です。休めます」
「誰の」
「え、何がですか」
「誰の小屋なのかな。勝手に入っていいものじゃろうか」
「戸が開いているときは、勝手に使っていいのです。閉まっているときは、中の人もいませんから」
「誰が」
「だから、中の人です」
「小屋番か」
「さあ、よく分かりませんが、めしなど分けて貰えますよ。酒もあったかな」
「じゃ、茶店じゃないか」
「店屋としてはやっていないようです」
「じゃ、何だ」
「休憩所じゃないですか」
「何の」
「山仕事の」
「ただの通行人でも入れるのか」
「暇そうですから」
「入ったことがあるのか」
「二回ほど」
「ならばいいが、怪しげな小屋があると聞く」
「妖怪小屋でしょ」
「そうじゃ」
「この先の小屋は問題ありません。二回寄りましたが、何もなかったですよ。草餅が美味しかったです」
「アンは」
「入ってませんでした」
「そうか、しかし三度目は妖怪小屋になっておるかもしれんぞ」
「食べられるのですね」
「そうじゃ、餅じゃなく」
「私が聞いた妖怪小屋は、山仕事の人達じゃなく、化け物の休憩所です。しかし、害はないようですよ。一寸気味が悪いので、休憩どころじゃないですけど。落ち着いてお茶や餅を食べられない。喉につまりますよ」
「何でもいい。早くその小屋へ行こう。休憩したい」
 二人はその場所へ来たが、ない。
「おかしいですねえ。壊れたのかな。この前、来たのは半年前。地面に小屋跡さえない」
「ここじゃないのじゃろ。勘違いじゃ」
「このあたりだったのですがねえ。おかしいなあ」
「何でもいい。ここで少し横になる。その草むらが良さそうだ。少し仮眠する」
「あ、はい」
 
   了



 


2021年10月9日

小説 川崎サイト