小説 川崎サイト

 

葉とバッタ

川崎ゆきお



「譲ることも選択肢の一つです」
「それしかないのに、どうして一つなんだ」
「では、その方向で進めましょうか?」
「聞く必要はない。それ以外の選択があるのか?」
「一応確認です」
「ついに、我が社はここまで来た」
「長い間御苦労様でした」
「これからは苦労はいらないという意味か」
「いえ、これからが大変かと」
「わしを残したくないようだな」
「それは会長のご判断で」
「譲り渡した後、わしは残らなくてもよいと思っているのか」
「それは選択肢の一つです」
「残るのもその一つの中に入っておるのか」
「当然です」
「では、その他は?」
「ごゆっくりなさることも必要かと」
「その他は」
「はい」
「何がはいだ」
「はい」
「選択肢は二つしかないじゃないか。沢山ある中の一つではなく、二つだけじゃないか」
「残られた場合の役職は名誉顧問です」
「出社せずともよいということか」
「はい」
「バッタがおる」
「はあ?」
「バッタだよ」
「商法ですか?」
「本物のバッタだ。小さくて緑の奴だ」
「はあ」
「それが葉を食い散らしておる」
「見当がつきませんが」
「まともな葉は一枚もなくなった」
「はあ」
「これでは育たん」
「枯れますね」
「そうじゃない。枯れない。また新芽を出す」
「はい」
「それも齧られる」
「バッタを退治すればよいのでは」
「バッタと木の苗のどちらが大事だ?」
「木かと」
「バッタが大事なら、貴重な食料だ」
「それは何を言わんとなさって…」
「庭がそうなっとる」
「我が社の庭先のことですね」
「我が家の庭だ」
「園芸のお話でしたか」
「どちらが生き残るか見学だ」
「それで、最終選択は?」
「わしは葉だ」
「では、どう判断すればよろしいので?」
「苗木の生命力にわしは賭ける」
「はあ?」
 
   了


2007年10月02日

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