小説 川崎サイト

 

気分の問題


 三村は今朝は気分が良くない。身体が悪く、何か気分が悪くなっているのではない。多少体調は芳しくないが、平熱範囲だろう。多少の波はある。
 気持ちが悪いのではなく、気の持ち方が悪い。昨夜食べ慣れないものを食べたからではない。腹具合が身体に影響を与え、気分にもそれが出てきたりする。
 これは、ぼんやりとしているとき、それを感じる。忙しい日々を送っているときは支障がない限り、気にしないだろう。
 そういう内面的なことよりも外的な物事などに気をとられる。我が身のことだけを気にするような暇がなかったりする。
 台風が来ているのを身体で分かる人もいる。低気圧や空気の影響かもしれないが、まだ、それが来ていなくても、さざ波を受けるのだろう。一寸だるくなったり、息苦しくなったりとか。これは暇なので、縁側で、ぼうーと座っている年寄りに多い。感度が高い。
 三村はそれほどの年ではないが、気分を大事にする。良い気分を大切にするわけではなく、気分の変化を大事にする。この大事とは、注目するということだろう。実際には小事だが。
 その朝は、一寸気分が違う。いつもの三村ではないような感じがする。相変わらずのいつもの慣れ親しんだ三村ではなく、一寸気が変わっている。気の効いた三村ではなく、一寸不安定な三村。
 その三村の様子を見ている三村が常にいるのだが、これも三村のうち。三村自身だ。これは一寸気持ちを引いて見ているだけかもしれない。
 いつもと気分が違う。気が違ったわけではない。季違いでは仕方あるまいというのを三村は思い出す。季語が違っているのだ。
 しかし、それほど大袈裟なことでもなく、心身に異変が起こっているわけではない。ほんの少し、茶碗にご飯を多く盛ったとか、少なく盛ったか程度で、一口か二口ほどの差。
 三村はここに敏感になっている。なぜなら、いつもの三村でないと、落ち着きが悪いのだ。
 ノートパソコンを少しだけ左か右側にずらして置いたとき、タイプミスが多くなる。その程度の問題だ。
 その気分は半日ほど続いたが、そのあとは均されてきたのか、馴染んできたのか、それほど目立たなくなった。
 そして、別に何も起こらなかった。
 
   了
 


 


2021年10月13日

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