小説 川崎サイト

 

趣味人


 秋晴れが続いていたのだが、天気が崩れだした。その影響かどうかは分からないが、草加の体調も良くない。入院中、急変したわけではない。普通に生活を送っているので、病人ではない。
 ほんの一寸したことだが、それで気分が違ってくる。あまり張り切って何かをやろうという気が起こらない。単純なものだ。
 そういうことはよくあり、天気の影響だけで、やることが左右される。それを押してでもやればいいし、また、できるのだが、そんなときはろくなことはない。これはただの経験から来ているが、例外もある。
 体調が悪いと乱暴になることもあるし、逆に丁寧になることもある。どちらに出るかはやってみないと分からない。
 経験に縛られるわけではないが、経験則は理由になる。やりたくないときの。
 草加は別にやることはない。あるにはあるが、そういうことは習慣になっているので、決断も必要ではないし、やる気も必要ではない。
 ただ、一寸楽しみにしている趣味の世界がある。こちらが弱まる。当然だろ。必要ではないため。
 だが、これが生きがいのようになっており、そこが振るわないと、元気も沸かない。趣味の副作用だが、いいふうに出ている。
「相変わらず趣味人だな、草加君は」
「趣味というほどのことじゃないよ」
「でも、それが楽しくて、生きているようなものなんだろ。それがメイン」
「そうでもないけど、ある方が良い」
「いいなあ、私なんて、そんな気の効いた趣味なんてないからね、まあ、仕事が趣味のようなもの」
「結構じゃないか、そちらの方が上等だよ。僕なんて子供の頃に消印付きの海外の切手を買いあさっていたけど、何の役にも立たなかった。しかし買い方を覚えたりした。値打ちのない切手なので、年数を経ても値なんて上がらないしね」
「いや、そういうことができるのが羨ましいよ」
「でも海外の切手は絵が珍しいんだ。それを見ているだけでも楽しかったなあ。ポジフィルムを見ているような感じでね。小さいから良いんだ。よく見ると、かなり細かいところまで書いてあるよ。それに、この絵柄、よく切手になったなあと思うようなほど妙なのもある」
「今で言えばサムネイル程度の大きさだね」
「まあ、切手はそれが全てなんだけど、元になった写真や絵画や、肖像画なんかもあったんだろうねえ。誰だか分からないけど」
「ふーん、上等だね」
「あなたのような趣味と実益を兼ねたことの方が良いよ」
「いや、実益が加わるから、失敗はできなし。生活や将来に関わる」
「ああ、そうだね」
「ところで、今日は元気がないねえ」
「天気が崩れだしたので、その影響なんだ」
「あ、そう」
「まあ、調子が悪いので、趣味は休んで、誰かと話したい思ったんだ」
「それは大事だね。でも私はこれから仕事を始めないといけないので」
「あ、そうか。邪魔だったなあ」
「まあ、結構話したじゃないか、切手の話とか」
「そうだね。何かすっとした。じゃ、帰る」
「本当に体調、崩さないようにね。趣味も良いけど、熱中しすぎると身体を壊すよ」
「ありがとう」
「じゃなあ」
「うん、またね」
 
   了



 


2021年10月15日

小説 川崎サイト