小説 川崎サイト

 

不明瞭現代劇


 秋晴れの日曜日、のんびり過ごしてもいいのだが間宮は踏切を渡り掛けた足を止め、駅へ向かった。心配事があるのだ。
 それは間宮自身の心配事でもあるのだが、同僚の平田が心配になった。
 同期入社だが、新卒ではない。二人とも転職歴がそれなりにあり、何となく受けた会社に就職できた。可もなく不可もないような会社。
 偶然出合った仲とはいえ、友人となり、親友と言えるほどになっている。これは働きやすいためだろう。
 その平田が最近、欠席が多い。続けて休むこともあり、理由を聞いても、はっきりとは言ってくれない。病気ではないことは確か。
 だから、精神的なことだろう。これはよくあるのだが、会社も薄々気付いている。病欠なら仕方がないが、これは年に何度もないだろう。あっても言い訳で使う程度。
 それで間宮は様子を聞きに、平田の家へ行くため、散歩を辞めて、駅へ向かった。
 平田の家は同じ路線。かなり奥まったところにあり、終点に近い。もうその辺りは田園風景が続いている。岡もあり、一寸した山を感じるほど。
 一度来たことがあるので、行き方は分かっている。
 先に電話で連絡を取ればいいのだが、断られるだろう。調子が悪いと。
 それで、いきなり押し掛けることにした。
 それで、いつもとは反対側のホームから電車に乗り、すいているので、楽々座れ、少し居眠りをした。
 本当に寝たわけではない。寝る手前、色々と脳裡に来るものがある。それを吟味していた。美味しいわけではないが、勝手に思い浮かぶので、それを食べるしかない。
 平田に会いに行くのは心配してのことで。それは好意だろう。しかし、本当かと、一寸ブレーキがかかる。
 その日は踏切を渡り、その先にある大きな公園で紅葉でも見ようかと思っていたのだ。売店もあり、食堂もある。一寸した観光地のような感じになっている。
 ここへ遊びに行く行楽よりも、平田を見に行く方が楽しいのではないかと、嫌なことを考える。決して善意ではなく、ただの好奇心。これなら親友ではなく、悪友。悪意を含んだ関係の友達程度で、悪いことをする仲間ではない。
 だが、どんな悪意があるのだろう。
 あるとすれば、間宮の好奇心。それを満たしたいからではないか。
 いけない、いけないと、その考えを押し込める。それで、目が冴えてしまい、うたた寝はできなかった。
 平田の住む福田駅に着いたので、間宮は降りる。そのまま降りないで、通り過ぎてもいいと間宮は考えてしまった。先ほどの考えがまだ頭の中にあるのだろう。何か、面倒な気がしてきたのだ。
 しかし、切符はそこまでなので、降りた。
 そして駅前のコンビニで煙草とライターを買う。持ってくるのを忘れていたのだ。そして古本屋があるので、そこを覗き、百円になっている時代劇小説を買い、奥まったところにある古臭い喫茶店に入り、それを読み出した。
 戻りも、電車内で、ずっと読んでいた。
 結局、平田には会わなかった。それほど親しい親友ではなかったのかもしれない。
 凄腕の素浪人が活躍する明朗痛快時代劇小説。結構面白く、部屋に戻ってから、最後まで読んだ。
 
   了


 


2021年11月3日

小説 川崎サイト