小説 川崎サイト

 

父帰る


 同じことを繰り返しているようで、同じことをずっとやっているように見えても、接し方が違う。そのため、結果が少し違う。
 同じだが、違う。というより、同じようには絶対にならないこともあるためだ。むしろそっくりそのままの繰り返しの方が難しい。
 ただ、意味としては同じようなもの。結果も微妙、微少な違いはあるが、一緒と同じ。だが、出てきた意味が少し違う場合もある。
 それは接し方だろう。以前と同じ結果や意味でも、やっている側が別の意味で接しているのかもしれない。
 だからそのものは同じでも接し方が変わるのだろう。そのものは変わりがなくても。
「また、面倒なことを述べていますねえ。竹田君」
「良い調子でしょ」
「まあ、よくある発想で、私も何度か体験しておる。これは大事だよね。今回はいいんじゃないかね竹田君」
「有り難うございます。今回は僕も体験に基づいて語っています」
「まあ、その体験が常識とは違っていたとしても、そう思ったことには違いがないし、自分で得たものなら、身につくわけだ」
「そうですね。でも、今回は常識的でしょ」
「まあ、それほど現実に影響するようなことじゃないからね。そういうこともある程度で、見え方、接し方の違いや変化程度。わりと普段からやっていること、感じていることだからね。だから、今回の研究は安全だよ」
「やっと、認められた」
「いやいや、そんなもの、誰でも知っていることだから、認めるも何もないよ。普通だよ」
「あ、はい」
「だが、身についたもので、人様にも通じるようなことだと分かりやすい。竹田君が自分だけが体験し、自分だけが感じたことというのは危ないものも含まれている。それは竹田君自身にしか通用しないようなものを差すんだがね。それはあまりしない方がいい。まあ、独り言ならいいんだがね」
「人の話を聞いても、分からないことがかなりあります」
「その人だけに分かるようなことが語られている場合に多いですねえ。それで、分厚い本になっている。たった一言で分かるような内容でもね。だから、その一言の中味を語っているんだ。すると長くなる」
「そうですねえ。僕もそうならないように注意します」
「そんな注意はまだまだ必要ではありません」
「そうでした」
「先ほど君が言っていたこと、繰り返しやりなさい。見え方の違い、接し方の違い、意味の違い。これには同じことを繰り返す必要があります。しかし、最初感じたことが一番よかったという結果になるかもしれませんがね。無駄なことをやったように思えますが、最初感じたそれとは、もう違っているでしょ。元に戻って元の位置でもね」
「父帰るですね」
「余計なことを」
「あ、はい」
「君にしか分からないじゃないか」
「ああ、はい」
 
   了



2021年11月15日

 

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