小説 川崎サイト

 

神社跡の霊場


「霊場があるのですが、どうですか。最近流行っている場所です」
 妖怪博士担当編集者が、いつものように、やってきて、おかしな話をする。これは仕事なので、仕方がない。そう言う話しかしない人ではないが、用件がそれなので、その話ばかりになる。
「昔からあったスポットなのかね」
「いいえ」
「霊場とは何かは知らないが、霊場なら昔からある。修験者とかが走り回っておる山だ」
「街中にあります」
「じゃ、幽霊でも出るのか。しかし、それは霊場とはいわんだろ」
「幽霊はもういいのです。これはよく分からないので、そのネタは放置され、霊場に変わりました」
「じゃ、以前は心霊スポット」
「それをやめて、霊場に」
「アトラクションかね」
「元々神社です。しかし、放置神社で、もう社殿も鳥居もありません。普通の家が建っているのですが、地主は元神主の家系です。つまり、神社跡にアパートや借家などを建てたのですよ。どちらにしても住宅地の中にありますが、街としても賑わっているところです」
「ほう」
「神社の周囲は森です。まあ、浅い森ですが、外側の木はそのまま残っていますし、神木だった木は伐採されましたが、切り株は残っています。それと、結構高い木がまだ無事に生きており、これは端っこにありましたから、まだ聳え立っています。松ですが」
「うむ」
「いい場所でしょ。元境内に住む。森の中と言うほど深くはありませんが」
「まるで、そこに住むと、神様になったようなものじゃな」
「そうなんですが、出ました」
「その頃は幽霊なのじゃな」
「誰かが言いだしたのでしょう。目撃者もいましたが」
「気のせいじゃな」
「そうです。それで一時は幽霊の出る場所、つまり心霊スポッとして取り上げられたことがありますが、すぐにおさまりました」
「それで次は霊場か」
「それは和風です」
「和物か」
「洋風にカタカナになっています」
「パワースポットとか」
「まあ、そんな感じです。見るだけではなく、身に付く」
「何が」
「パワーが」
「何の」
「まあ、精神力のようなものでしょうか」
「精力か」
「魂の強化とか」
「神社でも出来るじゃろ。そんなものはたまに清めに行くだけでいい」
「やはり、霊力が付く方がいいのでしょう」
「あらぬ霊が憑くかもしれんぞ」
「悪霊」
「それで、私にどうせよというのだな」
「先生も、一度行って見られてはと」
「それが次号のネタか」
「はい」
「私は妖怪博士。それを忘れるな」
「妖怪もいいのですがね。そっち方面も一寸やってもらいたいのです」
「知識がない。経験もない者の出番ではない」
「でも、不思議なこと、神秘物ですから、これは博士の領域でもあるのです」
「パワースポットになったのは最近だな」
「そうです」
「犯人は元神主の、その地主だな」
「その結論は、言わないことに」
「じゃ、もう分かっておるのか」
「おそらく」
「で、良いことがあるのかね。そんな場所にして」
「ボロボロだったアパート。殆ど空室だったのが、埋まりました。借家もそうです」
「それだけか」
「借家の一階にオープンスペースができました。そこで色々なアイテムなどが売られています。中には高いものもあります」
「やるのお」
「また、アパートの管理人室はカフェになっています」
「流行っておるのか」
「ぼちぼちですが、好きな人は、一応様子見程度には来るでしょ」
「ほう」
「また、アパートの一部屋に猫の部屋がありまして」
「もういい。それは私の出番じゃない。君が取材すればいい。神秘も何もない。
「駄目ですか」
「私がそのままを書けば、元神主への営業妨害。ところで、その神主、どうしておるんじゃ」
「神社時代よりもいい暮らしになっているとか」
「別に大儲けはしておらんのだな」
「そうです」
「じゃ、そのままでいいだろ。しかし、元境内にアパートや借家、森に囲まれ神様待遇。これはちと、見学したいねえ」
「じゃ、引き受けてくれるんですね」
「いや、仕事じゃなく、ただの散歩じゃ」
「それでもいいので、暇なとき、見に行って下さい」
 その後、妖怪博士は見に行ったのだが、何があったのかは知らないが、アパートも借家も空っぽになっていた。
 神様に叱られたのかもしれない。
 
   了


2021年11月16日

 

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