小説 川崎サイト

 

急いでいるときほど


 急いでいるときほど何らかの障害があるもので、逆に急いでいないときは、すんなりといく。
 急いでいないときは、障害があっても、目立たない。遅れても特に影響がないためだ。
 気に掛けていないときは、偶然は発生しにくい。気に掛けているときは、偶然を発見しやすい。気に掛けているときでも発生しているのだが、気付かない。気に掛けていないため。
 急いでいるときでもすんなりといくのだが、一寸した遅さ、手間が少しでもかかることがあると、これを障害、邪魔立てと見なしてしまう。
 しかし、急いでいるだけあって、早い目なので、急いでいるのに遅くなると言うことではなかったりする。
 下田は昼の休憩で喫茶店に入り、戻ってからすぐに仕事にかからないといけない。そうでないと遅くなる。時間がないのだ。
 しかし、昼休みは欲しい。自営なので時間は決まっていない。気の済むまで昼休みをやれば良いのだが、ほぼ時間は決まっている。
 ところが、その喫茶店、セルフサービスの店だが、列ができている。並ばないといけない。ここで時間を食ってしまう。
 それで、時間を無駄にしたくないので、買い物をする。その間、列は減るだろう。
 だが、戻ってみると、まだまだ列が長い。長蛇とはよく言ったものだ。買い物をしなければ、長蛇の尾ではなく、少し中程寄りで並んでいただろう。
 これはよく晴れた秋。しかも日曜日。だから、列ができることは知っていたが、すっかり忘れていた。長蛇といっても一時間も待たないといけないほどではなく、先頭が見えていないような状態ではない。多少行列ができていても、しばらくすれば、自分の番になる。
 しかし、急いでいるとき、それを待つのが、もの凄く長く感じる。
 昼休みを早く終え、さっさと戻って、仕事にかからないといけない。できるだけ早い方がいい。しかし、昼休みなしでやるほどのことではない。そこまで急いでいない。
 レジの先頭が止まった。注文品が切れたとかで、客は別の品を考えているらしい。サンダル履きのラフな格好の中年女性。髪の毛はバサバサ。そして財布だけは大きなのを持っている。意味は分からないが、千円札二枚を取り出している。
 セリフサービスの安い店なので、一人でそれだけのものは飲んだり食べたりしないだろう。だから、二人分かもしれないが、それらしい人はいない。先に席を取りにいったのだろうか。
 それで、財布から小銭を出したり、千円札を出したりと、何やらゴソゴソしている。それで、列の流れが止まってしまった。
 下田はどうすべきかと考えた。既に列の中程にいる。この位置、地位ではないが、それを失いたくない。しかし、常識を越えるほど止まっている。
 もう昼の喫茶店は諦めた方がいい。待っている時間に、コーヒーを飲んで休憩を終えているほど。
 しかし、レジで並ぶだけの昼休みになる。これが障害物。急いでいるときほど、そんな客が現れるのだ。まるで妖怪。
 それで、どうしようかと迷っていると、その中年女性が動いた。勘定を済ませ、飲み物を持ち、席へ向かった。
 これで難なきを得たのだが、列ができているだけでも障害。
 下田は席に着き、コーヒーを飲み、煙草を吸ったのだが、何故か気忙しい。昼休みが休みにならない。
 しかし、結果的には少し長い目の昼休みになった程度、それほど差し障りはないだろう。
 だが、店を出て、戻り道で、というのがあるかもしれない。
 
   了

 



2021年11月17日

 

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