小説 川崎サイト

 

場末の二人


 場末の喫茶店。横に場末のビリーヤード屋がある。
場末の似合う妖怪博士も、場末の人間だろう。
 所用で立ち寄った駅前、この近くに幽霊博士が住んでいることを妖怪博士は思い出し、珍しく持ってきた携帯電話で、呼び出してみた。
 携帯するから携帯電話。しかし、滅多に持ち歩いたことはない。外出先でところ構わず電話がかかってくるのが面倒なためだ。
 しかし、妖怪博士の携帯電話にかけてくる人間は希で、ほとんどいない。担当編集者も家電話にかけてくる。
 つまり、妖怪博士の携帯電話番号を知っている人などほとんどいないので、かかってくることはないのだが。
 場末の喫茶店、そこで妖怪博士は幽霊博士と会っている。二人を知らなければ年寄りと青年が会っているだけで、別段怪しいものではない。
「いましたか」
「はい、寝ていました」
「起こしましたかな」
「いえいえ、起きるところでしたから」
「夜型になったのですかな」
「はい、幽霊を見に行くため、夜に活動することが多いので」
「まだ、幽霊の研究をされておるのですなあ。まあ、やめた方が良いと思うのじゃが。いつも目の周りが黒い」
「これは寝不足です」
「そうでしたか。それは失礼」
「いえいえ」
「この前、幽霊の出る病院跡に来られたとか」
「ああ、一寸した仲間がいまして、幽霊ハンターです。機械を使っています。計器とか。それを見に行きました」
「そういうもので、引っかかるものですかな」
「僕は機械では感知できないと思いますが、周辺のものに変化が現れるかもしれませんので、無駄だとは思いません。それに幽霊の声などを録音したのもありますが、これは何とも言えません」
「そんなものがあるのですか」
「海外です。だからよく分かりません」
「病院跡の廃屋、あそこに出るのは幽霊だけだとは限らないでしょ」
「そうですねえ。でも幽霊ハンターが来れば、幽霊が出ますし、妖怪ハンターが来れば妖怪が出るでしょう」
「ほう、来た人により、演目が変わるのですな」
「それはないと思いますが」
「ところで、幽霊博士は計器類とかは使わないのですか。霊媒とか、霊能者も同行しない」
「はい、でも、計器を使う人達も霊能者を連れて行きますが」
「出そうな場所、ポイントを先ず教えてもらうわけですな」
「そうです。しかし、僕は素手です」
「廃屋や廃墟だと手が汚れるでしょ」
「軍手はしますが」
「あ、そう。で、どうなんです。幽霊は」
「幽霊は見たことはありませんが、周囲に変化が現れます。だから、います」
「幽霊が人型なら分かりやすいですなあ」
「そこなんです。妖怪博士」
「合っておりますかな」
「はい。人がそれを見ると、人型に見えるのかもしれません」
「それはまた面妖な」
「どちらにしましても、その正体は計り知れません。僕たちが幽霊とか、霊現象と言っているものは、実際にはまったく異なる何かだと、僕は想像しています」
「半ば想像の産物」
「想像でしか見えないものですから。そして、それが想像かリアルかの境界線が曖昧です」
「あなたは幽霊博士なのですから、もっと科学的な調査をすればいいような気がしますが、どうなのです」
「科学には限界があります。だから捉えられません」
「私は想像上のものを語る形而上学をやっておりますが、あなたもその系譜のようですねえ」
「はい、だから、こうして交流しているのでしょう」
「ああ、なるほど」
 形而上学、これも今では場末の学問かもしれない。
 
   了

 


2021年11月24日

 

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