小説 川崎サイト

 

庭仕事


「雨ですねえ」
「今日は仕事は休みです」
「おや、何かお仕事をされていましたか」
「いえ、庭の掃除です」
「ああ、園芸屋さんでしたか」
「いえいえ、うちの庭掃除です」
「それが仕事」
「一円にもなりませんがね、これが仕事なのです。私にとっては、庭木も伸び放題ですから」
「雨じゃ、できませんねえ」
「そうです。合羽を着てまでやることじゃない。それにノコギリや植木バサミを使いすぎて、手が痛い。少し休めないと」
「あ、はい。でも暇仕事にはちょうどですねえ。僕もそういう用事が欲しいです」
「勤めておられるのではないのですか」
「自営です。だから、いつでも休めますが、殆ど休まずやってます」
「それはお金になりますか」
「ああ、一応仕事ですからね。それで食ってます」
「そちらの方が羨ましい。庭の掃除が仕事よりも。それにずっとやっているわけじゃなく、片付けば、それで一段落で、当分しなくても済む」
「僕は部屋の中で、ゴソゴソやる地味な仕事なので、庭に出て、手入れなどしたいのですが、庭などありませんから、それはできない相談。植木鉢を置く場所があるので。せめてネギでも植えたいのですがね」
「買ったときに付いてくるあの根ですね。あれが弱いのもある」
「食べませんからね」
「私はそういった園芸趣味はないので、庭などあっても仕方がないのですがね。いつの間にか生えてきた木が大きくなってしまい、今じゃ、太くて切れないので大変ですよ。生えだしたときなら、簡単に抜けたのに」
「庭に出ていないのですか」
「はい、庭など見ていませんでしたよ。用事がないのでね。庭に興味がなかったのですよ。だから、その手入れが最近の仕事です」
「色々とあるんですね」
「世の中を動かすような凄い話じゃありません」
「はいはい」
「じゃ、この雨で庭仕事も中止ですね」
「毎日やってましたからね。雨が降るとほっとする。休めますので」
「なるほど」
「今日は軍手を買いに来ました。指の先が破れましてね。軍手程度では爪が黒くなりますよ。まあ、洗えば良いのですが、取りにくいです。これもまあ仕事の一環」
「僕なんて、土いじりなどで手を泥だらけにしたいほどです」
「交代しましょうか」
「いえいえ」
 
   了

 


2021年11月25日

 

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