小説 川崎サイト

 

異世界

川崎ゆきお



「異世界はあるのでしょうか?」
「異世界?」
「この現実と違う世界です」
「この現実そのものが異世界ではないのかな」
「はて?」
「時々いるでしょ、そういう人物が」
「異世界からの来訪者ですか?」
「同じ町に暮らしている人だ」
「宇宙人が地球人と同じように暮らしているのですか」
「宇宙人とは異星人のようなものか?」
「そうです」
「それなら空で繋がっている。異なる世界ではない」
「でも、世界が全く違うでしょ。この場合、異世界と僕は呼んでいるのですが」
「まあ、そういうことだが、指しているものが多少違うだろ」
「それは詰めれば指し示すものが分かります」
「それは程度の差だ。こうして話が通じるのはな」
「まあ、細かく言えば、同じものを見ても決して同じような感じで見ていないことになりますが、それを異世界とは言わないでしょう」
「だから程度の差だ」
「その差が大きいと異世界になりますか?」
「それに達している人が身近にいるだろ」
「みんなそれぞれの頭の中の現実を見ている図ですか」
「それより、どうして異世界の話を?」
「現実が虚ろになることがあるからです」
「医者へ行きなさい」
「すぐに戻れるから大丈夫です」
「その虚ろ状態から異世界を見たか?」
「存在感が薄れるだけです」
「現実が薄くなるのは異世界ではない。その虚ろの先に鮮明な風景が見え出すと危ないぞ」
「大丈夫です」
「その鮮明な風景、明快なる存在感。それが立ち現れると異世界だ」
「身近にあるのですね」
「そこに入り込むと、そこが異世界である認識もない。現実だと思い込んでしまう」
「でも異世界は、この現実と同じ映像でしょ」
「そうだ。同じものが同じように見えておるし、時間軸も狂ってはおらん」
「何が違うのですか」
「解釈が全く違う」
「それは自覚症状はないのですね」
「ない」
「いそうです。話が通じない人が」
「通じないのじゃない。違うものを見ているからだ」
「虚ろの先へ進むと、世の中がはっきり見える。しかし、それは異世界なんだ」
「何を指しているのかは分かりませんが、朧げながら分かりました」
 
   了


2007年10月07日

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