小説 川崎サイト

 

寒いだけの話


「寒くなってきましたなあ」
「もう冬ですから」
「そうか、あたりまえの話か」
「でも、毎回冬に入ると、寒いです」
「そうでしょ。寒さが来る。最近なかった寒さ。まあ、毎年経験していますが、昨日と違い、寒い。これはやはり気になりますよ」
「そうですねえ。昨日はまだ秋。終わりがけなので、それなりに寒いですが、今日ほどではない」
「そうでしょ。やはり、ここは寒いと言ってみたくなるでしょ。分かりきっていることなのですが、今日が寒いとは昨日まで分からなかった。だから、分かり切れていない」
「毎年冬に入ると、そういうことを何度もやっているはずなのにね」
「そうでしょ。分かっていながらも、分かっていない。冬なので、その覚悟で臨むわけじゃないし」
「それは寒冷地へいきなり行くのなら、覚悟もいるでしょうがね」
「そうでしょ。でも命取りになるほどの寒さではない。普通の寒さです」
「でも油断していると風邪を引き、命取りになるかもしれませんしね」
「風邪で死にますか」
「風が引き金になったりします。風邪は万病の元」
「そうですね。油断はできない。しかし、寒いからといって、そこまで用心しませんが」
「そういうこともあるので、何が引き金になるのかは分からない。寒いぐらいでそんなに神経質になる必要はないのです。命取りになるのは思ってもいなかったこと、気を遣い、神経を払わなかったことが、引き金になるかもしれません」
「恐ろしいですねえ。じゃ、油断していることは本命にならない」
「用心していますからね」
「ああ、なるほど」
「これからもっともっと寒くなりますよ。まだ序の口。年内は大したことはない。本当に寒いのは、年を越してから」
「でも、いつもよりも寒いのが気になります。大した寒さでなくても、効きますよ」
「これまでが暖かかったのでしょ。秋の終わりにしては穏やか。だからガクンと気温が下がったので、そのせい」
「ご尤もです。仰る通り」
「ところで、あなた、寒いと何か問題でも起きるのですか。ひどく拘っておられるますが」
「寒いと体が動かないのです。鈍化します」
「虫とか爬虫類がそんな感じでしょ」
「私は虫ではありませんが、爬虫類のケがかなり多いのです」
「じゃ、冬眠しなければ」
「そこまで多くありません。一応哺乳類ですから、体温の調整はできます」
「それはなにより」
「はい、お陰様で」
 
   了


2021年12月4日

 

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