小説 川崎サイト

 

夢電車


 三船は舟を漕いでいた。電車の中だ。夢を見ていた。そして夢を見ていると分かっていた。半分まだ起きているのだろうか。車内なので、色々な音が聞こえてくる。それで覚めそうになったり、また眠ったりしているためだろうか。
 夢の中で電車に乗っていた。そして居眠りをする夢だ。そのままではないか。これは起きているのだ。
 しかし、いつも乗る電車ではない。塗装が違うし、座席も違うし、吊り広告の位置も、つり革も違う。窓も。では、やはりこれは夢を見ているのだ。
 そして、その夢は覚めた。乗り換え駅のアナウンスが流れので、気付いたのだろう。車内はいつもの電車で、夢の中で見た電車ではない。この路線で、そんな車両は走っていないはず。
 何処かで見た車両だろうか。外側からではなく、車内だけの記憶しかないので、特定できない。
 これは夢の記憶で、実際に乗ったことのある記憶ではない。何処かでやはり乗ったのかもしれない。ローカル線を乗り継いでいるとき、ほんの数駅だけの繋ぎのような路線もあった。一両だ。そういうのを含めると、過去色々な電車に乗っている。
 三船が忘れているだけで、うんと子供の頃に、乗っていたのかもしれない。そういえば夢の中の電車、少し古い。吊り広告が垂れていたので、それを覚えておれば年代が分かるだろう。ただ、位置だけしか覚えていない。
 乗換駅に着いた。いつも降りる駅。通勤ではなく、一寸買い物で、大きな都市に出ていたのだ。その帰りで、ラッシュまではまだ時間がある。外はまだ明るい。
 電車を降り、そのホームの向こう側にある支線へ向かうため、地下へ降りる。線路の下に潜り込むのだ。
 そして出てきたところは支線のホーム。一車線しかない。駅を出たところで、複線になる。乗換駅が狭く、敷地に余裕がなかったのだろう。
 そして、やってきた電車に乗る。いつもの車両だ。
 そこから降りる駅までは二駅しかないので、もう居眠りはしない。しかし、発車までかなり待たされる。いつものことだ。この時間帯は本数が少ない。
 それで座ったものの、発車まで時間がある。それで乗らないでホームのベンチに座ったままの人もいる。すいているので、何処で待っていてもいいのだろう。
 三船はそのつもりはなかったが、また居眠りだした。しかし、走っているときの方が寝やすいようだ。ゆりかご効果だろう。
 そしてウトウトし始めた頃、走り出した。いい感じだ。これで待たされるという感じがない。
 そして、夢もまた、いい感じで見ている。さらに先ほどと同じように、また電車の乗って居眠りをしている夢。
 今回も、自分が夢を見ていることが分かっている夢。そしてその車両。先ほど見た車両と同じ。同じ夢なのだ。今度は吊り広告の文字を読み取ろうとした。
 見たことのない広告だが、何かのイベント。遊園地だろうか。その遊園地は知っている。そして廃園にはなっていない。ゲスト名がある。聞いたことはないが、小さな顔写真があり、それでやっと思い出した。最近の人だ。そしてイベントの日時などを見ると、来週から開催とある。だから、この夢の中の電車、昔のものではない。
 確かにいつもの支線、間違えたわけではない。
 先ほどと同じように、今度は降りる駅のアナウンスがあったので、それではっと我に返る。
 車内は当然、乗ったときのいつもの電車。
 改札を抜けるとき、やはりあれは全部夢だったのだと、思うことにした。
 しかし、いくら夢でも、二回もそんな夢を続けて見るなどはおかしい。
 あの車両、夢の中にだけ走っている夢電車かもしれない。
 
   了



2021年12月9日

 

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