小説 川崎サイト

 

一度見たアーケード


 島田は篠崎の駅に降り立ったとき、何処かで一度見たような場所だとすぐに分かった。それはすぐに来た。白峰という友達から呼ばれて、遊びに来たのだが、篠崎の町は初めて。ただ、電車で何度か通過している。だから、知らない町ではない。
 車窓から何度か見ている。それでどういう町なのかは分かるのだが、両隣の町とそれほど違いはない。ただ、大きな木があり、それは大木。これはお寺があり、その壁のような大屋根よりも立派なほど。
 そこがこの篠崎町の印象。車窓からそれが一番目立つ。
 さて、改札を抜け、一寸した広場があり、これはタクシーやバスが入り込むためだろう。ここはもう市バスは走っていない。鉄道会社のバス停があり、三つほど乗り場がある。一寸したバスターミナル。
 それらは初めて見るものだが、その広場の向こう側にある家並み。一寸した商店街が横に並び、その中央にアーケードがある。それに見覚えがある。
 篠崎商店街と書かれている。これは見たことがない。文字まで覚えていないがアーケード入口の形に記憶がある。ぼんぼりが飾ってあり、造花のモミジ。また、桜も混ざっている。取り替えなくてもいいように、最初からあるのだろ。
 そのぼんぼりに見覚えがある。よくある飾りなので、他で見たのかもしれないが、その入口の横にある食堂。これは古い。ちょうど角になっている。この建物との組み合わせに覚えがあるのだ。
 アーケードの入口の通りの左右の建物。手前のターミナル広場は新しいが、駅前風景を知っているのだ。
 右に食堂、左に花屋。その隣までは覚えていないが、今はシャッターが閉まっている。食堂の右隣は不動産屋のチェーン店になっており、それは知らない。これも新しい。
 駅に面してある商店街。そしてその正面にアーケード、そこに入ると、さらに見たことのある風景が展開されそうだ。しかし、一度も来たことのない場所。
 お寺の大木は線路沿いを左側にいったところにある。その一部が見えている。車窓から見たときよりも小さく見える。
 入ってはいけないのではないか。何かショッキングなものを見てしまうかもしれない。島田はそんな予感が走った。
 だが、入らないと迷う。アーケード内で迷うのではなく、白峰が教えてくれた道順なのだ。
 この中に入り、右に散髪屋、左に饅頭屋があるところに横からの道が来ているので、そこを右へ曲がれ、ということだ。
 そのまま進めば右に公園があるので、それを超えたところで右に入り、数軒先に古びたアパートが二軒あるので、その手前のアパート。
 すぐに階段があるので、二階への外階段で上がり、三つ目の部屋。
 果たしてそこまで行けるだろうか。
 このトンネルのような洞窟のようなアーケード内で、とんでもないことを知るのではないか。そして、その中はよく知っていた場所だったりする。
 場所だけならいい。そこを行き交う人が問題で、思うぬ人に出会うかもしれないし、また島田はまったく知らない相手なのだが、向こうはよく知った人として島田に近付いて来るかもしれない。
 そして、アーケード内には出口がなく、永遠と洞窟が続く。
 島田は、ショッキングなことなど起こらないように願いながら、アーケードの中に入って行った。
 
   了


2021年12月11日

 

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