小説 川崎サイト

 

妖怪カムナ神


 不審者がいるので通報する。妖怪がいるので通報する。これはまったく違う。また、通報場所も違うだろう。
 妖怪が目撃したとかの妖怪情報は何処に通報すればいいのだろうか。通報とは、ちょと危険度が高いことに対してのものかもしれない。だから妖怪談などは通報ではなく、ただの情報提供かもしれない。そういうのがいました、出ました。
 妖怪は者だろうか。物であることもあり、また事象だったりする。ただの気配だけとかも多い。緊急性はない。それに誰も被害に遭っていないし、またその恐れも感じない場合もある。
 妖怪博士は、そういう通報か報告かは分からないが、届いた手紙を読んでいる。
 某氏はそれを妖怪と言っているが、妖怪博士から見ると、それは神に近い。
 神が妖怪。それはありうる。神の出来損ないとか、流された神など。また閉じ込められた神が妖怪になったりとかも。
 千年の眠りから覚めた鬼のように。
 それが最近の話なら、千年前は平安時代あたり。そんな鬼が闊歩していたのだろうか。妖怪談などもこの時代、多かった。菅原道真の祟りとかも。だから、天神さんとして祭った。鎮魂だ。これで勘弁してくれと。
 今回は、かなり古い神らしいが古事記には出てこない。
 それとはまったく系統の違う神筋がいたのだろう。しかも、かなりローカルで、祭る人もいなような。
 しかし、それを代々祭っている家系があるらしい。そういう家系なのだ。ただし、密かに。
 その神名はカムナ。ありそうな名だ。地方都市の旧家の林のような庭で祭られているのだが、庭にお稲荷さんや、家神様を祭るような規模。
 しかし、祭っているのが、かなり古い神。一族の氏神様ではない。その神との繋がりはない。ただの祭司。神主や巫女といえば簡単だが、祭り手は普通の人。
 祭司はそれを受け継いだ者なら、誰でもいい。
 この得体の知れない神を妖怪だと通報されたのだが、その家の自由だろう。別に迷惑を掛けていなければ。
 しかし、怪しげなものを祭っているとされ、妖怪博士に手紙を書いたのだ。まさに不審神。
 妖怪博士を指名したのは、妖怪だと決め付けたため。また妖怪扱いにしたかったため。
 このカムナを祭る家と、その近所の家との間で、別のいざこざがあったのではないか。
 由緒正しい神などいるのかどうかは分からないが、有名どころのブランド神はいるが、その家のカムナ神などは誰も知らない。そこを狙われたのではないか。何か、貶めるような。
 カムナ。思い当たるとすれば、古代にあったとされる記号のような神代文字だろう。その時代の神様かもしれない。
 妖怪博士はそういう神様を祭っている旧家がまだあると知っただけで、手紙の返事は書かなかった。
 依頼者側の味方をしたくなかったのだろう。
 怪しいのはカムナではなく、この人だ。
 この話は、担当編集者にも言わなかった。こういう太古の神は、触らない方がいい。
 
   了



2021年12月13日

 

小説 川崎サイト