小説 川崎サイト

 

蛍光灯


 冬の夕暮れ時。寒い。夏の夕暮れ時、暑さが少し引くが、まだまだ暑い。
 気持ちがそれだけ違うのだと、柴田は窓から外がよく見える喫茶店で、熱いコーヒーを飲んでいる。ぬるいコーヒーを出す店も珍しいが、時間が経てばぬるくなる。
 その前に柴田はそれを何口か飲み、腹を温めた。内からの暖房というわけではないが、暖房が弱いので、丁度良かった。
 窓は正面にあり、テーブルの向こう側に丁度ある位置。窓を見ていたのではなく、窓の向こう側を見ていた。建物の屋根が少しだけ見える。あとは空。
 窓枠がテーブルよりも高いので、風景の下側は切れている。上は背の高く天井付近まであるので、見晴らしがいい。ただし上方だけ。
 そして丁度日が沈む寸前。いい場所、いい席だ。その席はカウンター席で四人ほどが並んで座れる。空が見たいのなら、特等席だが、屋根しか見えないので、下側の地面は見えない。そこは二階。
 黒い雲が多く、夕焼けも勢いがない。赤さが足りないのだろうか。空は赤味を帯びているが、黒い雲は黒いまま。
 歪な雲なので、形を言い表しにくい。何かの形になっておればいいのだが、それがない。だから抽象画のようなものだろうか。
 ただ、それは雲だと分かる形。空を見て、雲を見ているのだから、雲に決まっているが。
 しかし、入り組んだ海岸にも見える。かなり上から見た絵だ。地図で見た方が早い。何とも言えない形をしているはず。見知った形ではないのも共通している。
 空が暗くなりだし、下界の明かりが目立つようになる。星が出る前は、町の遠い明かりが星の代わり、にはならないが。
 柴田は久しぶりに沈みいく陽、そして暗くなりつつある刻々のシーンを眺めていた。
 この喫茶店の近くで買い物がある。寒かったので、一休みしたかったのだろう。お陰で暖も取れ、夕方のイベントも見せてもらった。
 買い物は蛍光灯。町の明かりではなく、部屋の明かり。切れてしまったので、部屋が暗い。買い置きはない。
 柴田は起ち上がり、喫茶店を出た。ドアが重い。風を受けているのだ。外に出ると、寒い。分かっていること。
 そして家電店に入ると、明るい。照明だらけ。そういうのを売っているのだから、ここはどの店屋よりも明るいのだろう。電気代が大変。
 柴田は昔ながらの蛍光灯を買い、外に出たときは、また寒く、さらにもう既に暗くなっていた。
 
   了

 


 


2021年12月25日

 

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