小説 川崎サイト

 

年末へ


「押し迫ってきましたねえ」
「クリスマスを過ぎると一気です。釣瓶落としで新年」
「最近は井戸や釣瓶は見ませんねえ。私の子供の頃は既にポンプでした。だから井戸の中は滅多に見ない。年末になると、井戸の水替えなどをやってましたがね。鯉なんかを放していた頃もあったようですが、狭いところに閉じ込めて、今、考えると可哀想ですねえ」
「今でも、汚いドブ川に放流されていますよ。背びれが外に出るほど浅いところにね。だから鯉たちは少しでも深いところに集まっていましたよ」
「害虫を食べてくれるのでしたか」
「そうでしょうなあ。しかし、その鯉がある日、消えました。全部じゃないですけどね」
「鯉釣り、鯉すくいですか」
「そう、盗まれたのです」
「どうするんでしょうねえ、その鯉。池でもなければ飼えませんよ」
「食べたんじゃないですか。または鯉の生血を飲んだとか。聞けば母親が病で、鯉の血が良いと聞いた孝行息子だったりして」
「そんな話、ありましたねえ。しかし池の鯉や川の鯉じゃなく、ドブ川でガタロウのような鯉じゃ、一寸ねえ、話が汚れますよね」
「そうですね。鯉の話じゃなく、年末です。そろそろ今年も終わる」
「何かと忙しいですよ。大掃除の真似事じゃないですが、ほんの少し片付けをやり出したのですが、余計に散らかりました。途中でやめるわけにはいかない。捨てようと思うのを出してきたまではいいのですが、気が変わって捨てるのをやめたりします」
「まだ使える物や、着られる物がありますからねえ」
「でもおそらく一生使う可能性はなさそうですが、予備として置いておく手もあります」
「私は、年末の、そんな片付けなど諦めました。これは日頃からやっておれば良いのです。三百六十五日ありますからね。一日五分でもいい。続ければ掃除時間としては長いですよ」
「ああ、私もそれをやろうとしていたのですが、ついつい忘れて、春までには完全に忘れています。急ぎの用じゃないのでね、そちらを優先させますから」
「ああなるほど、そんなものでしょうねえ、年中大掃除の続きじゃねえ」
「ところで、クリスマスはどうでした」
「忙しかったです」
「色々なイベントがありましたからねえ。私はケーキさえあれば満足です。大きな丸いやつでね。独り占めです」
「糖尿になりますよ」
「年に一度だから、いいんです」
「なるほど」
「忙しかったのはクリスマスバーゲンです。普段よりも安くなっている。その日を待っていたのですよ。だから買い物で忙しかったのです。でもそのセール、クリスマス前からやってますし、終わっても、まだやってました。そして年末まで同じのを安い値段で売ってましたよ。年末セールとかで、それで年が明けてもお年玉セールとか、新春バーゲンとかで、また同じ品を」
「呑気でいいですねえ」
「クリスマスとか、年末年始、特にやるようなこと、ありませんから、買い物のチャンスなので、血の雨を降らします」
「それは、また大袈裟な」
「高いものを買って、失敗すれば、血の涙が出ますよ」
「だから出血セールなんでしょう」
「客がね」
「はいはい」
 
   了


 


2021年12月27日

 

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