小説 川崎サイト

 

骨董友達


 以前から知っているものは馴染みがある。知っているので当然だが、よく知っているものでも馴染めないままのものもある。合っていないのだろう。
 他のものと変えてもいいのだが、そこは馴染み、手に馴染まないことを馴染んでいる。下手に快適だと馴染めないかもしれない。手の馴染みと、頭の馴染みとは違うのだろうか。
 下草は馴染んでいないものをずっと引き受けている。そのうち、それが自分の世界の一部になっている。
 下手をすると、自分の全てがそうかもしれないが、自分の世界とは何だろうと考えると、なかったりする。ほとんどものは取って付けられたものだろう。ただ、馴染んでいるので、それらが自分の世界になっている。
「相変わらずだなあ下草君は」
「そうですか。それでも以前から比べると、変わっていますよ。自分でも気付くほど」
「しかし、傍目では分からない。内部の細かい部分まではね」
「馴染み合戦です」
「何だね、それは。そう言う言い方をする下草君はやはり下草君だ」
「安心しますか」
「まあね」
「どうして」
「そのままの関係でいいから」
「益田さんは結構変わりますねえ」
「そうか、中身は同じなんだけど」
「職場が変わる度に、人まで変わったように見えますが」
「そんな観察をしているのかい」
「すぐに分かりますよ」
「変わった振りをしているんだ。しかし仕事と普段は別。それでも滲むんだろうねえ、職業癖が」
「でも中味は同じだと」
「年とともに多少は変わるだろうけど、本質は同じだよ」
「じゃ、演技している人も結構いるんですね。それに騙されちゃいけないんだ」
「演技も長く続けると、本物になったりするらしいけど、どうかねえ、やはり性分は変わらないと思うよ」
「僕は変えないといけないことが色々あるんですが、面倒臭くて、そのままです」
「必要がなければいいんじゃない。心構えだけの問題でしょ」
「そうなんです。構えているだけで、うわべだけですから」
「そのうわべが世間じゃ大事なんだよ。誤解されてもね。まあ、いい誤解もあるから」
「古いものも、残したいんです」
「何の」
「だから、昔から持っている考え方とか」
「あ、そう。勝手にすればいいと思うよ」
「今頃、そんな考えを持っているのかと、思われるかもしれませんが、残しておいてよかったと思うこともありますから」
「まあ、古いものは捨てて、新しいものを入れる。これが普通なんだけど、必要がなければ、そのままでいいんじゃないかな」
「はい、そうしています」
「君には話していなかったけど、また転職する」
「簡単にできるのですね。僕なんて、今の会社、辞めると、もう行くところがありません」
「飽きるんだよ。今日と同じことをまた明日も、来年も、再来年も、となると、うんざりしてきてね。新天地に行きたくなるんだ」
「いいですねえ。僕なんて、今の会社でしか通用しないことしか持っていませんから」
「いいんじゃない。抜群の安定感だよ」
「今じゃ、骨董品扱いです。益田さんが羨ましいです。尊敬しています」
「中学の同級生なんだから、そんな丁寧な話し方、しなくてもいいよ」
「あ、はい」
 
   了


 


2021年12月28日

 

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