小説 川崎サイト

 

平凡な雨

川崎ゆきお



 平凡な雨が降っていた。
 田村は途中で傘を使った。
 家を出る時は降っていないと思っていた。
 しかし、ここ数日春雨が続いていることから、傘を持って出た。自転車の荷台のゴム紐に突き刺している。
 夜だった。
 冷たいものが手の甲を濡らした。
 少しは降っているかもしれないと感じたが、そのまま自転車を走らせる。
 水銀灯を見ると、雨粒が見えた。
 昼間なら最初から雨と分かり、傘を差しただろう。
 路面が濡れていることは承知していたが、その前に降った痕跡だと解釈していた。
 水銀灯真下の雨粒を見てしまうと、このまま走る気になれない。傘は用意しているのだから。
 田村は自転車から降り、傘をゴム紐から抜いた。
 折り畳み傘だが、折り畳んでいなかった。
 ぱさっと傘が開いた。骨が一本曲がっていた。
 タバコを吸っていたので、指で挟みながら傘を持った。雨の日、傘を差している状態でもタバコを吸いながら走れる。
 田村は運動のつもりで自転車で家を出た。小一時間ほど走れば気晴らしにもなる。
 だが、雨の日は気苦労となるため、引き返そうとした。
 しかし、せっかく着替えて外に出たのだから、このまま戻るのはしゃくだ。
 その位置から一番近い場所で、寄れそうな所を考えた。
 小一時間ほどつぶせればよいのだ。
 寄れそうな店屋はもう閉まっている。遠くにならあるが、それなら往復するだけで小一時間かかる。それなら店に入る必要はない。
 田村はコンビニへ向かった。運動を諦め、買い物に切り替えた。
 コンビニは近所に数店あり、距離も近い。その距離を走りながら買うべき物を探した。
 必要な物があるはずだ。
 田村はシチューにマカロニを入れたいと思っていたのを思い出した。それを思い出せたことで、盛り上がった。
 シチューにマカロニを入れれば、ご飯を炊く必要がないし、パンを買う必要はない。
 コンビニに入った田村はマカロニを探した。
 乾麺を見つけた。うどんだ。その棚近くにあるはずだ。
 しかし田村の思惑は外れた。スパゲティーの長い棒が槍のように見えた。
「惜しい、あと一息なのに」
 何も買わず田村は外に出た。
 平凡な雨が降り続いていた。
 
   了


2007年10月10日

小説 川崎サイト