小説 川崎サイト

 

化ける

川崎ゆきお



 沢村はそこにコンビニがあることは承知していた。
 しかし、いつも寄るのは近所のコンビニだ。弁当を温めてもらった時、近いほうが有利だし、毎日寄っているため様子も掌握している。
 コンビニ店員も顔を覚えているはずだし、沢村も店員の顔を見知っている。
 その存在だけを知っているコンビニが消えた。いつも夜道なので、明かりが消え、暗い場所となった。
 数カ月後、明かりを見た。
 同じ場所に、コンビニのような店ができていた。
 最初、それをコンビニだとは思わなかった。
 沢村がよく見かけるコンビニのどの名前でもない。聞いたことのないアルファベットのため、コンビニだとは思わなかったのだ。
 沢村は毎晩その前を通るが、駐車場が広く、店は奥まったところにあるため、店内がよく見えない。
 しかし、以前あったコンビニの建物をそのまま使っているのは間違いない。
 コンビニが潰れた後に、またコンビニができている。それを了解しずらかった。
 だだっ広い駐車場には車は一台もない。自転車もない。
 前の道路は広いが通行量は少ない。その先に二店、コンビニが並ぶようにある。もう三店目は必要ではないはずで、だから簡単に潰れていた。
 それを承知の上で、またできているのを沢村は不審がった。
 沢村がそれをコンビニだと認識したのは、アルファベットを解読したからだ。日本語に直すと「寄り道どころ」だった。
 新しくできたチェーン店なのか、または個人が勝手につけた名前の店なのかは分からない。
 沢村にとってのコンビニは、有名なチェーン店で、どこでも見かける店をさしていた。
 その店がコンビニに見えないのは、名前によるものだ。
 沢村は中がどうなっているのかを見たくなった。
 そして中に入る、やはりコンビニだった。少し内装を変えた程度だ。
 いかつい顔にいかつい体格の店員が警備員のような制服を着て、働いていた。
 客は誰もいない。しかし三人の店員は忙しそうに動いている。レジカウンターの奥にドアがあり、それも開いている。その部屋にも人がいる。
 沢村は野菜ジュースをレジに持って行く。いかつい男が面倒そうな態度でレジを打つ。
 沢村は逃げるように店を出た。
 コンビニに化けた何かの事務所だろうか。
 沢村は危険を感知し、二度と寄るまいと決心した。
 
   了


2007年10月11日

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